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第21話 介入は静観
沙奈もあれ以来何も言わないし、萌音も言い出さなかった。肝腎の翠にも変わった所は見られず、一人、正大だけが悶々としている気がする。このまま迷宮入りするのかな。でもな、クリスマスやお正月、いろいろカップルチャンスのタイミングがあって、また沙奈が動き出さないとも限らない。萌音もまた悶々としていた。そして2学期終業式の日の放課後、
「沙奈、ちょっといい?」
萌音は遂に沙奈に声を掛けた。
「うん?」
「帰り道さ、ちょっと寄り道いい? ミスドだけど」
「いいよ。って今日は神田君と一緒じゃないの?」
「うん。買物あるって帰っちゃった」
「ははーん。クリスマスじゃない? 萌音、おねだりのチャンスかもよ」
「どうせまた変なもの買って来るのよ、時々趣味を疑う」
「それって最早夫婦あるあるじゃね? ウチの親と一緒だよ」
二人は喋りながら、ミスドに入る。ドリンクとドーナツを前にして、萌音は切り出した。
「あのさ、前に沙奈が翠ちゃんに稲垣君のこと、言ったでしょ?」
「ああ、聞いてたの?」
「うん。翠ちゃん、あれから凹んでるよね」
「そうね。私はあれきりなんだけど、稲垣君が翠に迫ったって一部の女子の中で広まっててさ、反発してる子がいるのよ」
萌音は驚いた。
「だって翠ちゃんは、どっちか言うと断った方じゃないの?」
「それがまた鼻につくって、アッパーレイヤの子たちが騒いでる」
「えー? だって、もし翠ちゃんが稲垣君と付き合ったら、『なんであの子が』ってなるんじゃないの?」
沙奈はココアを一口飲んでため息をついた。
「そう。そうなのよ。そこが面倒なのよ。女子的と言うか、元々翠って転校して来ていきなり目立ってたから、内心面白くない子も多かったのよ、田舎娘の土佐犬が生意気ってあからさま」
「田舎娘って・・・、人のことは言えないと思うけどね」
「まあね。西から来たから余計に嫌みたい。東北とかならまた違うんだけど」
「なにそれ。全然判らん」
「私も判んないよ、でもほら、知らない場所からって警戒するんだろうね。私も行ったことないからさ、四国って」
萌音は呆れたが、そこは本論じゃない。
「まあ、それは置いておいて、私、思うんだけどさ、翠ちゃんって好きな人がいるんじゃないかな」
「あー、もしかして、四国と遠距離?」
「ううん。ウチの学校。1組の當麻君」
「誰?」
「翠ちゃんが朝の電車、よく一緒だったみたい」
「ふうん。その當麻君って、よく知らないけどカッコいいの?」
萌音は困った。しかし正直に言うしかない。
「うーん、むしろ逆? 平凡、中庸、モブ、オタクっぽい。あ、でもね、地球環境を守ろうとしてる」
沙奈は笑った。
「何それ、ウケる~。SDG'S的なヤツ?」
「ちょっと違うかな、一人で考えてるだけみたいだから」
「へぇ。それって推しも引きも出来ないな。正体不明過ぎ」
萌音は困ってカフェラテを飲んだ。
「そうなの。當麻君の気持ちも判んないし」
沙奈はドーナツを割って口に運ぶ。
「ま、そう言う事情があるならさ、翠には申し訳ないけど暫く静観ね。中途半端に介入するとこっちが悪者になっちゃう」
二人はドーナツを頬張り、頷き合った。
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