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第3話 行き詰まり
結局その女子高生は、慧が電車を降りるまでその位置から動かなかった。と言うか、慧が降りようとしたら、彼女の方が先に降りたのだ。
どこの高校だ。あんま見ない制服だけど。
慧が下車する結浜駅には本線と支線が乗り入れていて、その近辺に高校は幾つもある。ま、あんまりジロジロ見てストーカーと間違えられてもヤバイしな。慧は興味を打っちゃった。
改札にタッチしていつもの道を歩く。距離にして数百メートル、たった数分の道のりは慧の通う県立結浜高校の生徒だらけだ。校門が近づいたとき、慧の目にふと違和感が飛び込んだ。歩く度にポニテが揺れるその制服は、先ほどの女子高生。結浜高生の薄いブルーのシャツではなく、ただの白いブラウス。え? 彼女はそのまま校門に入って行く。ウチの高校なの? しかしそれ以降を慧は追跡できなかった。1年の時に同じクラスだった神田 蒼馬(かんだ そうま)が尻を蹴飛ばしたのだ。
「てっ!」
「おはようございます」
「なんだよ、それ」
「いつも控えめな慧さんに、気合いを注入しました」
「益々、なんだよそれ」
「全然、気づかないじゃない。友が隣を歩いてたのにさ」
「そうだっけ?」
「何か熱心に観察されていましたが、やはりお得意の地球環境の研究でしょうか?」
「ちげぇよ」
「え? ひょっとして女子? ようやく色づきましたか、慧さんも」
「違うって。何も見てないから!」
慧はムキになって反論し、蒼馬はそれをまた笑った。
+++
翌朝、慧はまたいつもの場所で電車を待つ。電車は定刻通りにホームに滑り込んできて・・・、そしてあの位置にはまた彼女が立っていた。
ドアが開き、慧はこそこそと乗り込む。なんで俺が遠慮しなきゃいけねぇんだ。ちらっと彼女を盗み見ると、
あ、校章がついてる。
彼女のブラウスの胸に、千鳥紋様の結浜高校校章がついていた。バックの色がグリーン。 ってことは同じ2年生だ。シャツは違うし、そもそもスカートも違うけど、やっぱ同じ高校の同学年なんだ。と言ってもそれ以上の手がかりはない。いや、何の手がかりだよ。名前聞き出して、『おい、なんであの場所に立ってんだよ』なんて聞けないし、大した理由もないだろうし。
もう彼女だって俺が同じ高校だって気付いただろう。しかも学年まで一緒って判るだろうにまるで無視だ。俺のことは全く目に入っていないみたいだ。ああ、このまま卒業まで行っちまうのかな。慧は嘆いた。
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