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第4話 水晶の瞳
何の会話のないまま2週間が経った。慧は未だ正体不明の彼女の肩越しに海を眺める朝が続いている。
彼女の肩越しに眺める海では、細かい部分が見えないことがある。ポニテが揺れて白波を覆い隠す。そんな日には慧は『不確かフラグ』として『A』を付記し、将来の解析に備えた。『A』はエイリアン(Alien)の頭文字。失礼な話である。
そうやって慧なりにデータ欠損の影響をミニマムに抑えようと工夫していたある朝、いつも新聞を広げているオッサンが立ち退いた。珍しく下車した乗客の席が空いたままだったのだ。慧はオッサンの後に陣取り、彼女と並んで窓の外を眺める。
電車は加速し、いつもの観測ポイントに差し掛かる。並んで立ってるの、嫌がられてないかな・・・。慧は一瞬、彼女を盗み見た。すると、
射し込む朝の光に彼女の瞳が光っている。水晶みたいだ。 え? 涙?
時間にしてほんの1,2秒。しかし視線を外した慧は狼狽えた。
なんで泣いてるの? 単に光が眩しいだけ? 眩しいと涙って出るんだっけ? 目まぐるしく思考が交錯する。
あ、しまった!
窓の外の風景は屋根ばかり。海が見えるポイントはとっくに通り過ぎていた。
何も言い出せないまま電車は結浜駅に滑り込む。彼女は軽く指で目を拭って電車を降りた。
慧はその光景が一日中頭から離れなかった。盛り上がった涙が光る水晶のような瞳。
どうしたのだろう。海を見ると悲しくなるのか。人魚みたいに海に戻りたいとか? ひょっとして海から来た転校生? 妄想は拡がる。明日も見れるかな。いや、悲しいことなんだったら、そんなこと望んじゃいけない。慧は首を振って邪念を払った。
翌朝は彼女の背中しか見えなかった。いつものように。
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