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第7話 避難訓練(2)
彼女は掌を慧に向けて制した。
「こら! 骨折れとるやき、歩いたらいかんよ」
「あ、ああ、すみません」
折れとるやきって、この子、どこの子だ? 慧は訝しく思いながら座り込んだ。彼女が慧の横にしゃがみ込む。
「この子は骨折しとるから、肩を貸して連れ出す。高馬さんは反対側から支えて」
「う、うん・・・」
そして彼女は慧の腋の下に腕を通すと、
「折れてない方の足で踏ん張って!」
「え、ど、どっちが折れてるの?」
「知らん! 自分で考えや」
「あ、おう・・・」
よく判らないうちに、慧は彼女に縋って歩き出す。反対側では救護班の女子生徒、4組の高馬萌音(こうま もね)が付き添いながら小声で言った。
「當麻君、大役だよね。臨場感あっていいかも」
肩を貸している彼女、慧の朝の指定席を奪った彼女の表情は硬いままだ。
周囲に気を遣われながら、慧たちは2階から降りて校庭に到着した。やれやれ・・・まじで大役だった。慧は背伸びをして普通に立ち上がった。その途端、
「こぉら!骨折しとる言うたやろ! 高馬さん、担架持ってきて」
「え? は、はいっ」
萌音が駆けて行き、すぐに担架を抱えて来た。自称救護班の彼女は周囲の男子を適当に捉まえた。
「あんたたち、担架持って! 怪我人運ぶから。そいで、あんたは立ってないで担架に寝て!」
周囲の男子は言われるがままだ。慧も指図されるまま担架の上に寝そべる。
前方では先生がハンドメガホンで叫んでいた。
「揃ったら、かえで公園へ避難しろーっ。かえで公園ではクラス別に学級委員が点呼とって、担任に報告しろ!」
校庭の生徒たちは、またぞろぞろと背後の丘に向かう。
「じゃ、怪我人頼んだよ。あたし、もう一度昇降口見て来る」
ポカンとするクラスメイトを置いて、彼女は風のように校舎に舞い戻った。
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