35円分の奇跡

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 梅雨は嫌い。  コンビニに来店してきた客の靴裏についた泥ですぐ店内が汚れるし。  床が濡れて滑りやすくなってますって注意書きしてても、はしゃいで転んだ子供の親からクレーム来るし。  それに……常連ではない奴が、雨やどりしにフラッとやってきたりするし。 「あっ」 「……あ」  カウンター越しに目が合って、うっかり反応した自分が嫌になった。すぐに目を逸らしたけど、そいつはまっすぐ私のところにやってきて、面白そうなネタ見つけましたあと言わんばかりに意地悪な笑みを浮かべた。  同じクラスで隣の席の私の天敵──二宮政宗(にのみやまさむね)。  クールなメガネイケメンだなんてうちのクラスではモテはやされている二宮だけど、私にとってはただの嫌味なムカつく男だ。  購買部で売っている私の大好物の焼きそばパン、最後の一個をジャンケンでこいつに奪われたこともあったし、私が友達と大好きなライトノベルのキャラの話で盛り上がっていたら冷たい目で笑われて馬鹿にされたこともあった。  一番ムカつくのは、私が好きなそのキャラの外見がちょっとこいつに似ていることだ。  キャラデザ変えてとは言えないから、なんとも歯がゆい。  せめてメガネは外してくれないかな。メガネフェチなのバレるの嫌だから、それも本人には言えない。  そんな二宮と今、レジのカウンターを挟んで何の因果か鉢合わせ。  毎日隣の席にいるだけでも嫌なのに、何故学校の外でまでこいつと顔を合わせなくてはいけないのか。  よし、無視しよう。見なかったことにしよう。  そう思っていたのに、二宮はいつもの小馬鹿にする顔つきでフラットに話しかけてきた。
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