35円分の奇跡

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 雑誌と唐揚げ弁当を持って、二宮はついに私のいるカウンターにやってきた。 「……お弁当温めますか?」 「小腹減ったって言ったじゃん。すぐ食べるに決まってるだろ。聞くまでもなく気を利かせろよ」 「あのね! これはマニュアルだから言ったの! 聞きたくもないけどマニュアルだから仕方なくね!」 「マニュアルに頼らずに応用効かせろよ。鈍くせえ店員だな全く」  うるさいうるさいうるさい。もーほんとにこいつ何なの⁉︎  性格悪すぎ! こんなのがいいとか言ってる女子たちが信じられない!  神様、こいつに今すぐ天罰下してくれないかな⁉︎    「785円です」  ぶち切れそうになりながら商品のバーコードを読み取って表示された金額を言うと、二宮が「ほらよ」と財布から小銭を出した。  お弁当をレンジに突っ込んだ後、破壊しそうな勢いで蓋を閉め、あたためボタンを押してから私はカウンターに置かれた小銭を見る。  そこで気づいた。 「早く釣り出せよ」 「……いや、足りないんだけど」  カウンターに並んだ小銭は750円。つまり、35円足りない。 「あっ……⁉︎」  その時、奇跡が起きた。  いつものクールで余裕たっぷりでカッコつけてる二宮が、みるみる耳まで赤くなったのだ。黒縁メガネの奥の目が完全に焦ってる。  ひょっとして、50円玉を100円玉と見間違えてた?  しかもこの様子だと財布の中身はもう空だったりして?    チラリと顔を窺うとどうやら図星だったようで、どうしようかと煩悶の表情を浮かべている。  非情にもそんな時に限ってレジが混み出し、二宮の背後に列が出来る……。  どうする二宮⁉︎  見ているこっちもなんかドキドキしてくるよ⁉︎
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