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私は先輩に謝ってレジを代わってもらい、慌てて二宮のお弁当を持って店を出た。
夏の夕暮れは上がったばかりの雨の雫に残光を集めてキラキラと輝いている。
息を弾ませて辺りを見渡すと、足早に交差点を渡りきろうとしていた二宮の背中が見えた。私は大きく手を振って叫ぶ。
「二宮!」
二宮が私を振り返り、一瞬足を速めようとしたのが私には分かった。けれども、逡巡したのちに彼は引き返してきた。
ものすごく気まずくて、死ぬほど恥ずかしかっただろうけど──多分あいつは、私が困ると思って戻って来たのだ。
……私のために。
「大声出すんじゃねーよ、ド阿呆」
カッコ悪い。二宮はそう思っているのだろう。
カッコ悪い。私も確かにそう思う。
でもね。
「ありがとうございました」
何故だか心からの笑顔でそう言いたくなって、私は頭を下げてからお弁当を渡した。
またあのコンビニに来てくれるかな?
心の中で呟くと、まるでそれが聞こえたかのようにちょっと目を細めて二宮が微笑んだ。
「じゃあ、またな」
雨上がりの爽やかな風が私の心を吹き抜ける。
その時、二度目の奇跡が起きた。
ねえ、二宮。
君にも分かった?
夕陽に照らされてはにかんだ君の笑顔が、誰よりも眩しくて、可愛くて……愛おしく思えたんだよ。
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