異質の邂逅 三

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「……なんで、僕がこんな目に―――――」  それは、目の前の男にというよりかは、ネイサンが受けた理不尽すべてへの言葉だった。しかしその言葉が形になるより先に、自分の前にいた人影が掻き消える。 ――――バァンッ! 「………………は?」  いきなりの出来事に、ネイサンの思考が止まる。顔をあげて呆然とする彼の前に、タン、と軽やかに誰かが着地した。 「こんなとこに居た」  覚えのあり過ぎる、淡々とした声が耳に届く。数秒を要してその声と言葉が脳に届けられ、それからやっとネイサンはハッと目の前を見た。 「――――イェ、イェト!?」  相変わらず感情の読めない目で、イェトがネイサンを見下ろしている。その姿を見止めて、先ほどまでネイサンの内側を支配していた黒いものが霧散した。イェトの煌めく金色が、ネイサンには希望の光に見えた。 「……さ、探してくれたの?」 「お前、いきなり消えるから」  呆けた声で投げられたネイサンの問いに、イェトはわかりづらい肯定を返す。そして彼女は、スッと横を見た。  ――――バキッ  イェトに釣られてネイサンが視線を動かすと同時、木箱が割れる音が響く。崩れた箱の山から突き出た長い足が、近くにあった箱を蹴り飛ばしていた。それを見てネイサンは漸く、イェトに吹っ飛ばされた男がどうなったのかを理解した。 「――――ふぅー……やれやれ」  大きく息を吐きながら、木箱の山からジェイがのっそりと立ち上がる。緩慢な動作で首を回しているその姿に、傷を負った様子は見られない。あんなに勢いよく吹っ飛んだのに、とネイサンは驚いた。 「いくらオレでも、ここまでのゴアイサツは初めてだぜ」  足元に残った箱を蹴り飛ばし、武術の構えをしてイェトを見据えるジェイの顔には笑みが浮かんでいる。そこに先ほど自分が喰らったような圧を感じ、ネイサンはパッとイェトを見た。男が放つ殺気を一身に受けているだろう彼女は、相変わらずの無感情な目のまま僅かに臨戦態勢を取っている。  ――――やばい、受けて立つ気だ。 「ま、待って! あいつ、サ=イクなんだ!」  男の狙いがわからないままだし、先ほどは不意を突けたが正面からやり合うのは厳しいはず。ネイサンは慌てて制止の声をあげたが、対するイェトは視線はジェイに向けたまま小首を傾げた。 「なにそれ?」 「…………とにかく強いやつ!!!」  知らないのか、というツッコミをしている場合ではないと瞬時に判断し、端的に一番重要なことを言葉にする。いくら大の男を簡単に伸すイェトでも危険だ、というネイサンの心配は、しかし「ああ」とわかったようなわかってないような相槌を打ったイェトにいとも簡単ににされた。 「なら、平気」  ――――。  その言葉が聞こえたのと、イェトが弾丸のように飛び出すのはほとんど同時だった。  バシッと鋭い音がしてネイサンは一拍遅れでそちらを見る。先ほどまで彼の前にいたイェトが放った首元への蹴りを、ジェイが腕で防いでいた。 「そう何度も、同じのを喰らうわけにはいかねぇなぁ」 「……そう」
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