異質の邂逅 三

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「にしても……ははっ。オレを善人みたいに考えるとは、アンタの連れは相当なお人好しだな?」  狂気の表情とは打って変わってまた人をからかう類の笑みを浮かべたジェイが、イェトにそう投げかける。ネイサンは恥ずかしさで居た堪れなくなりながら、顔をしかめた。この男、性格が悪い。  ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる顔を睨んでいると、「いい子でしょ」と淡々とした声が涼やかに響く。 「私やお前とは別次元の人間だよ」 「……それってフォロー?」  褒めているのかそうでないのかよくわからないイェトのコメントに、ネイサンは何とも言えない気持ちになった。彼らと自分ではある種次元が違うというのは確かだが、このコメントは喜んでいいものなのやら。  そんなネイサンの内心は露知らず、イェトは「それにしても」と独り言のように呟いた。 「飲むだけで強くなる薬、か。バロールが知ったら怒りそうだな」 「バロールってぇと……この街のボスか」 「そ」  ジェイの確認に、イェトは端的に頷いた。  バロール――『蛇頭のバロール』は、ここスフィリスを支配するギャングの頭目だ。その立場に相応しく暴力と金を好む冷酷な人間で、ネイサンもその悪名高さは噂でよく聞いていた。 「無法者が集まるこの街でそんなものが広まれば、売り手は金も力も手に入れられる。バロールはそれを認めないだろうね。あいつは自分のこと、この街の王だと思ってるから」  まるで知り合いについて語るかのような口ぶりで、イェトはそう言った。 「手軽に強くなれる薬なんて、この街じゃ何もしなくても売れる。ここの連中は見境なく手を出すだろうし――広まったら、スフィリスは荒れるな」  彼女が淡々と語る未来予想図にぞっとする。理性のない獣のような奴らが街を闊歩しだしたら、ネイサンなんて一歩も外に出られなくなるだろう。 「まあ今初めて聞いたし、まだ持ち込まれてない可能性の方が高いけど。多分バロールも…………あ」  不意にイェトが言葉を切ってネイサンを振り返った。何事かときょとんとすると、なぜか「逃げるよ」と彼女が言う。 「え?」 「この倉庫、バロールが直接持ってるやつなんだよね」 「…………え?」  イェトの言葉に思わず辺りを見る。整然と並べられていたはずの荷物は、イェトとジェイの戦いの影響でそれはもう散乱していた。暗いので詳細はわからないが、箱が壊れて中身が出ているものもある。 「ここ荒らしたのバレたら面倒なことになる」 「ちょ、そういうことは早く言って!?」 「忘れてた」 「忘れんな!!!」  平然とのたまうイェトに全力でツッコむネイサンを眺めながら、「あー」と声をあげる男がひとり。 「それ、オレもヤバい感じだよな」 「お前は薬の事知ってるから、見つかって繋がりがあると思われたら私達より面倒なことになるよ」 「げぇ」  イェトの答えに嫌そうな顔をしたジェイは、瞬く間に退散の姿勢に入った。 「じゃ、オレはこの辺で」  言うや否やブルーグレーの髪を靡かせて消えた男に、ネイサンは思わず半目になる。そもそもあの男がここを選んでいなければ、こんな事態にはなっていないのでは。  釈然としない気持ちを抱えながら、ネイサンはイェトと共に倉庫を後にしたのだった。
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