彼女の目的 二

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彼女の目的 二

 イェトが賭けで手に入れた宇宙船は、最低限の機能を備えただけの本当に小さな船だった。乗り口の先はコックピットへの一本道のみで、途中にエンジン調整室がある他には物置らしき小さな空間があるだけだ。そこには前の所有者が置いていったらしき大きな箱がそのままになっていたが、変な物が出てきたら嫌だったので触れるのは止めておいた。 「問題は無さそう?」 「うん。大丈夫だと思う」  操縦席に座って各機器のチェックをしながら、イェトの問いに頷く。機体は問題なく動きそうだし、宇宙空間に出る時に必須になるスペースアーマーもちゃんとある。特に後者は、密造宇宙船だった場合には備わっていないことも多い――本来宇宙船製造時は必ず最大人数分のスペースアーマーを装備することが国際法で決まっている――ので、確認できた時ネイサンはホッとした。イェトの話では船外行動を行う可能性も十分あったため、無ければ困ったことになっただろう。  ネイサンの返答にイェトは「そ」と短く返すと、二つある操縦席のもう片方にその身を沈めた。彼女の座る席でも一応操縦は可能なのだが、動かす気は更々無さそうだ。まあ、このためにネイサンは雇われたのだから、敢えて彼女に任せる気も無いが。 「じゃあ飛ぶよ」  フロントガラスの向こうに見えるゲートキーパーに合図を送り、エンジンのスイッチを入れる。外の噴出口からガスが噴き出る音と共に機体が揺れ始めたのを感じ、操縦桿を握るネイサンの胸の内に密かに喜びが広がった。  ――――ああ、やっぱり僕は、これが好きだ。
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