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「なら、ちょうど雨上がりに決行なんだ?」  と、瓜生(うりゅう)(まこと)は小声で、同志、土岐(とき)に確認した。瓜生は、この活動では土岐としか会ったことはない。「仕事上のつきあい」を装って。  ついさきほども瓜生は土岐とショッピング・モール内の喫茶店で会話を交わしていたが、それは善良な普通の市民を装うため、瓜生の書いた台本めいたものをただ再現しただけのものだった。 「ああ、気象庁のサイトでは、とにかく長雨がやむのは五日後になっている。もう準備はほぼできているが、追加で武器や弾薬、ガソリンや灯油の確保、それになんとか情報を拡散できるといいのだが」  瓜生と土岐の本当に話したかった会話は、ショッピング・モールの男子トイレで隣同士で用を足しながら、だった。  都内の光景は、驚くほど以前と変わっていない。ただ、監視カメラの設置がすさまじい勢いで増えた。カメラは小型化し、設置されているのがわかる人間は少ない。  それはモールのなかのトイレでもおなじことだったが、ただ、小用の便器に向かっている場所には監視カメラは設置されていない。  瓜生も土岐も小声で話せばわからない場所だと判断して、計画を練ったりするのに使っている。
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