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 カメラに反体制的なことをしゃべっている様子を見つかったら、監視カメラ群と接続されたAIが言葉そのものは聴こえなくても、読唇術を使われ会話が追われてしまう。ひとたびAIに目をつけられれば、即座にどこに住む誰が危険思想の持ち主なのかを瞬時に判別する。またその思想ゆえの逮捕歴なども。 「澪ちゃんはいくつになった?」  と、土岐が尋ねる。時間的にそろそろトイレの前を離れないとAIが不審の判断を下すだろう。 「十三歳、中学に上がったよ……そろそろここを出よう」  瓜生はそういって、トイレを離れ、洗面台で手を洗う。  やはり隣で手を洗っていた土岐は、持参してきた小さな紙袋をわざと忘れる。瓜生はその紙袋を最初から自分のものであるかのように手にぶら下げる。  洗面台の鏡にもカメラはついていない。ただし、他の位置からはカメラに捉えられてしまう。左の頬に手をやって口元を隠しながら、髭の剃り残しを確認するかのように、瓜生は土岐に話す。 「澪のことを考えると、蜂起への参加は考えてしまうんだ」 「なんだと、今さら!」土岐が少し声を荒げて、すぐにいつもの話し方にもどる。 「そう言わないでなんとか参加してくれ。やはりお前のような人権派の文人が参加すると士気があがるんだ」
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