II

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 スマートフォンの電源をオフにすることは禁じられている。エラーなどで再起動することは稀にあっても、それは電源を切ることとはちがう。  瓜生(うりゅう)(まこと)が気づいたのは、家で妻の夏美と話しているときだった。夏美のパソコンが調子悪いのだという。  丸ごと買い替えが必要なのか、パソコンの一部パーツ……メモリか電源……の交換ですむだろうという会話の少しのちに、無料アプリの広告に、パソコンのパワフル静音の電源を買うならココ! という文言の広告が表示され、夫婦でスマートフォンが盗聴にも活用されていることに気づいたのだった。  それ以前からちらほら気にはなっていたものの、ただパソコンの広告ではなく、さっきまさに話題にのぼったパソコンパーツの広告だったことに瓜生と妻の夏美は何が起こっているのかを察した。 「これは誰にも言うな。つねに傍受されてる」  手近なメモ用紙に小さな文字で書いて夏美に読ませた。  夏美はただうなずいた。身体が少し震えている。  メモ用紙はそのまま捨てるわけにもいかず、瓜生は冷蔵庫からアルミ缶のビールを持ってくると、それでメモを飲み込んだ。  今はそこまでしなくともよかった。活動家の土岐(とき)と会うときには必ずといってよいほど、水溶紙をもらっている。どこの誰が作り、配布しているのかわからないが、相当の危険を冒しているのだろう。
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