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「この紙だって、本当は地下でだけやりとりされる危険な品物なのでしょう? 安定してこんなにいただけるとは。トキさん、いつもありがたいことだわ」
「まさか、土岐は恩を売っているとでも?」
「今日、トキさんと会ったのでしょ? まさか伝えたの? 蜂起には参加できません、って」
「──伝えた」
夏美は水溶紙を引ったくった。
「それでトキさんがはいそうですかって」
途中まで書いて、言葉にならず、夏美は水溶紙を前にくやしそうに涙を零した。
すでにモーツァルトの交響曲第四十番の第三楽章、メヌエットが流れはじめた。主な旋律が八小節だけでなく三小節や二小節にもなるため、パッと聴くと変拍子のようにも聴こえる。
瓜生誠は水溶紙を引ったくり返した。
「たしかに蜂起へ参加できないのは土岐にも悪いし、確実に許してくれないだろう。でも来るべき雨上がりの日の朝、蜂起の口火を切る、その一員としては動くんだ。ここにいるだけで」
「なにをするの?」
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