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だだっ広い休憩室は、会議用の長机が並べられているだけの殺風景な場所。壁際にずらっと並んだ自販機。その隣に置かれているポットやレンジは、自由に使うことが出来る様になっている。
大きな開口から差し込む光が、室内を明るく照らしてくれていて、木々が風に戦ぐ姿を眺めれば、少しなりとも心を和ませる事もできるんだろうけど、今は到底そんな気持ちにはならなかった。
午後三時半。やっとありつけた昼食。
あまり食欲もないとは思っていたけれど、こんな時間になれば、多少なりともお腹は空いて感じる。
持参した食パンを齧るだけの味気ない昼食でも、摂らないよりはマシだと思う程度だけれど。
パンに水分持っていかれて、置いていた水筒の中のぬるい麦茶を飲めば、なんとも言えない口の中で混ざり合う感覚は、お世辞にも美味しいとは言えない。
バックの中に、インスタントのコーンポタージュは持ってきているものの、それを作るのも億劫だったし、調子の悪い時にはそれすら弱りきった胃を攻撃してくるものだから、厄介な話だ。
「おひさー」
ポンと肩を叩かれて、陽気に声をかけてきたのは、同期の最上千佳。
「何、どうした?背中になんか負のオーラー背負ってるんだけど?」
「あっ、うーん」とはっきりとした返事をする気力もない私の反応なんて、お構いなしの千佳は、「ちょっと何それ?」と、私の手の中にあった袋を取り上げる。
「はっ?!」と、あからさまに怪訝そうな顔をこちらに向けてくる。
「まさか、これ昼ごはん?」
「あっ、うーん」
「はあ?」
呆れ果てた様子の千佳に、「非難したくなる気持ちは分かるけど、今それキツイ」と、頭を抱えながら、返事をする。
自分でも、相当イタいというか、ヤバいことになってるのは百も承知だ。
三十代も半ばになろうとしているのに、こんな姿職場で晒してるんだから…
「どうしたの?具合でも悪い?」そう聞きながら、向かいの席に座る千佳に、「まあね」と答える。
「胃が痛い…」
「胃が痛くて、食パン?」
「まあ、そう」
ぷっと吹き出した千佳は、食パンの袋の端を摘んで、目の前にぶら下げながら、「いくら胃が痛いからって、普通持ってくる?袋ごと…。全く可愛げないんだけど。どれだけ食べる気よ」と、笑いながらグッサグサ弱った心を刺してくる。そんな千佳に、もうなんとでも言ってくれと、歯向かう気持ちにもならない。
「ちょっと、しかもコレ切れてるじゃん」
ほれと、目の前に印字された賞味期限を突きつけられて、見たくなくても目の中に入ってくる。
たしかに、それは昨日の日付で、千佳が言うようにすでに切れてしまっているんだろうけど、そんな事は、もはやどうでもいい。
一昨日の仕事帰りに、閉店前のスーパーによって調達したものだったが、疲れすぎてて、賞味期限なんて確認せずに買ったから、そんな事になっても仕方がないんだろうけど。
「仕事?」
「まぁ…」
「ふーん」と私を横目で見る千佳は、「今日日勤だよね?」と聞いてくる。
嫌なんですけど、もう嫌な予感しかしないんですけど…そう思って、なかなか返事をしない私に、「じゃっ、仕事終わったらcoruriで待ってるから」と言い残し、私の返事も聞かずに去って行った。
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