雨の間にだけ活動するはずの泥棒が、なぜか今回ばかりは

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 売れない作家がいた。  親の遺した屋敷に引きこもり、遺産で食いつないでいた。  最近、大雨になると現れる泥棒が出没している。雨の音で侵入したときの音がかき消され、足跡も痕跡も消えてくれる、そんな雨の日を狙う泥棒だった。  作家は寝る間も惜しんで執筆をしているため、そのニュースを知らないままだ。  泥棒は余りにも成功し過ぎてしまったため、大雨の日になると住民に用心されるようになり、仕事に行き詰まってしまった。  次を最後の仕事にしようと獲物を探し始めると、人の出入りもなく、雨が降っても戸締まりを怠ける無用心な家だと、作家の住む大きな屋敷に狙いをつけた。  そして記録的な豪雨の日が訪れた。  泥棒は雨の中身体を濡らしながら作家の屋敷へと侵入すると、当たりをつけた金庫のある部屋へたどり着いた。  無事に最後の仕事を成し遂げた泥棒は、安堵しながら部屋を見渡した。そこは書斎を兼ねているようで、机の上にパソコンが乗っている。  最新式ならこれも売れるかもしれないと目をつけた泥棒は、パソコンをチェックすると、画面の中にある書きかけの原稿が目に留まった。
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