雨上がりの告白

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「梅雨って嫌いー」  太陽に追いついて隣に並ぶと、本当に嫌そうに顔を歪めて言うから、大きく頷いて共感する。 「ジメジメするし、空は暗いし、暑いんだか寒いんだか分かんないし、良いことなさすぎる」 「だよねー」  歩きながら窓の外の空を見上げてみると、暗雲が渦巻いている。まだまだ激しい雨が幾千も線をなして世界を飲み込むみたいに落ちてきていた。  部室棟には渡り廊下で繋がっているから、雨に当たる心配はない。学校の設計をしてくれた人には感謝したい。雨風に濡れるのは登下校だけで十分だ。 「見ているだけで鬱陶しい。憂鬱。梅雨ってさ、この言葉が一番似合う時期だと思わない?」 「たしかに。ねぇ、鬱陶しいって漢字で書ける?」 「うっとう、しい……」  頭の中には文字がぐちゃぐちゃと見え隠れするけれど、これだ! と確信できる漢字はみあたらなくて、首を傾げた。 「憂鬱は?」 「ゆう、うつ……」  どちらも、残念ながら私の頭の中には漢字が存在しない。 「考えるだけでも憂鬱になるし鬱陶しいから辞めよ」 「ははは、風ちゃんらしい」  笑う太陽の笑顔が眩しいから、私の心の中の天気は晴れだ。 「どうして風ちゃんはソフトテニス部に入ったの?」  部室に着くと、女子ソフトテニス部の部室だし、遠慮して太陽は部室の中には入らずに入り口ドアを開けっぱなしにした外で待っていてくれる。 「えーとね、漫画で見てカッコいいなーって思ったから」 「え? 漫画?」 「うん」  喋りながら、私はハンガーを見つけると靴下をかけた。 「少女漫画なんだけど、めっちゃカッコいい男の子がテニス部で活躍してて恋するんだー! それ読んでたら、私もテニス部に入ってカッコいい人と恋したいなーって思ったから」  落ちてこないようにバランスをとって窓際に干すと、部室から出た。 「待っていてくれてありがとう」と言いながら、静かにドアを閉める。 「そうなんだ。テニス部にいるの?」 「え?」 「恋の相手」 「……いない」 「そっか」 「いないよー! ぜんっぜんいないっ! やっぱりあんなの漫画の世界だけだよ!」 「ははは、また怒ってる」 「もう、嬉しそうに笑わないで」  カッコいいと思える人なんて、テニス部にはいない。だって、あたしがカッコいいと思っているのは、太陽だけだから。  だけど、この気持ちはまだ伝えるのが怖い。  この距離感がすごく楽しくて、心地良いから。もし、気持ちを伝えて気まずくなってしまったりしたらって考えたり、伝えないままでいた方が良かったって、後悔するくらいなら、そっとしまっておいた方が良い。  教室に戻る渡り廊下から見えた空も、まだ暗くて雨の止む気配はない。  今日は部活も休みかな。そんなことを考えていたら、太陽が急に立ち止まった。 「……どうしたの?」  二歩先に行った私は、振り返って太陽の顔を覗き込む。
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