雨上がりの告白

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 いつも笑顔でほんわかしている太陽が、泣きそうに眉を下げて、苦しそうに口元を結ぶ。  外の雨の音が、廊下にやけに大きく響いて聞こえた。 「……僕さ、引っ越すんだ」 「……え?」 「風ちゃんには、伝えておきたくて。ちょっと前から、今月末に引っ越すことが決まってたんだ」  わざと笑顔を作った太陽の表情は、雲がかかったみたいに陰る。 「……そう、なんだ」 「うん……だから、残りの時間も今までと変わらずに仲良くしてほしい」 「そんなの……もちろんだよ」 「良かった」  安心したように微笑む太陽。思わぬことを聞いて、胸の奥がズキリと痛んだ。  学区外からこの学校に転校してきた私は、誰も知っている友達がいない中学に編入することに緊張していた。教室の中はすでに仲の良い子たちでグループになっていて、私は一人席について渡されたプリントをもう何度も読み込んでいた。  カタンっと隣に座った男の子が、こちらを見ているような視線を感じて、そっと顔を上げて見た。溢れんばかりの笑顔でこちらを見ている。 「隣よろしくね〜」  キラキラと眩しいくらいに輝く笑顔を向けて来た太陽に、あたしは人生初めての一目惚れをした。  人懐こい愛嬌の良さで、どこにいても太陽の声が聞こえて来て、見れば周りにはクラスメイトが周りを囲んでいる。そんな太陽が私に話しかけてくれるから、徐々にクラスメイトが私にも気軽に接してくれるようになった。気がつけば、人見知りなんてなくなって、私は誰とでも話ができるようになっていた。  授業中は真っ直ぐに黒板を見て、先生の声に耳を傾けている。ノートに走らせるペンを持つ指先がスラリと細くて、だけど角ばっていて大きくて、なんだかドキドキした。気が付けば、あたしは太陽のことを考えない日はないんじゃないかと思うくらいに、好きになっていた。  なのに。引越しちゃうの?  教室に戻ってからは、太陽から聞いた言葉が何度も頭の中で繰り返し響いてきて、なんだかとても悲しくなった。  永遠に隣の席でいられることなんてないとは分かっていたけれど、まさか、そんなに早く太陽と離れ離れになるなんて、想像もしていなかったから。落ち込んでしまう。  私は、このままでいいのかな。 『残りの時間も、今までと変わらずに仲良くしてね』  そんなの、嫌だよ。  残りの時間だけじゃなくて、ずっとずっと、太陽とは仲良くしていたい。  太陽にとって、私はただのクラスメイトで隣の席の人ってだけなのかな。  楽しいって感じている私と同じように、太陽も私とずっと仲良くしていたいって、思ってくれたりしないのかな。
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