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「ねぇ、風ちゃん」
まっすぐ前を向きながら、太陽は話し始める。
「風ちゃんはさ、僕が引っ越してしまったら、寂しい?」
「……え」
そんなの、寂しいに決まってる。聞いた時は信じられなかったし。信じたくなかった。
「僕はね、すっごく寂しいよ。だって、毎日風ちゃんに会えるのが楽しくて、嬉しくて学校に来てるんだもん」
肩と腕が触れそうなくらい近い距離にあるから、ドキドキが聞こえてしまわないか心配になる。だけど、太陽のことを見れば、耳まで真っ赤になっているから驚いた。
それって、あたしとおんなじ気持ちなんじゃないかなって、思ってしまう。
本当に、同じなのかな?
確かめたいけど、まだ勇気が出ない。
「あ、雨上がった?」
傘を傾けて、空に手のひらを向けた。雨粒は落っこちてこない。雲の切れ間から、光の筋が伸びているのが見えた。雨雲はまだ完全にはなくなっていないけれど、所々に淡い水色が暗い雲の間から覗いている。どうやら、ようやく晴れるようだ。
「雨上がりの空にはね、奇跡が見えるんだよ」
「……え?」
「何が見えると思う?」
「……虹?」
「うん、それと?」
「……太陽……?」
自信なく答えたのに、嬉しそうに太陽が笑う。
「さすが風ちゃん。正解!」
はしゃぐ太陽が近すぎて、思わずよろめいた。
「危ない」
すぐに、太陽が傘を持っていない方の腕で私を引き寄せる。
抱きしめられるみたいに近づいた太陽の制服のシャツは、お日様みたいな匂いがした。
「後ろ水溜り。また靴下水没しちゃうとこじゃん」
はははと笑いながら支えてくれる太陽の腕の力が強くて、ドキドキする。俯いてしまった顔は、たぶん熱を帯びていて上げられない。
「風ちゃん、引っ越しても僕は風ちゃんのこと想ってるね」
「……え」
思わず、顔を上げてしまった。
思ったよりも近い距離にいる太陽におどろいてしまうけど、真剣な目を向けてくれている彼からは目が逸らせない。
「好きだよ、風ちゃん」
にこっと笑って、朝より湿気を吸ってストレート効果の薄れたあたしの髪を撫でてくれる。
「隣町に行っても、僕のこと忘れないでね」
泣きそうに眉を下げた太陽の表情に、私まで泣き出しそうだ。
離れたくない。大好き。そんなの私も一緒だよ。離れたくないよ……離れたく……あれ?
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