雨契物語 (現代語訳)

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昔、雨男がいた。 そして、雨女がいた。 定めは二人を引き合わせた。 雨男と雨女が契ると必ず雨が降るのだった。 だが幸せは永く続かないのが世の理。 雨女は疫病を得て床に伏せった。 日に日に衰えゆく雨女。 雨男は天を恨み詠んだ。  千早振る 神にありても 許すまじ  我らが絆 裂かむとすとは 雨女は薄く笑み詠んだ。  願わくは 君の胸にて いま生きむ  命燃やさむ 雨上がるまで 雨男と雨女は一心に契った。 雨が地に浸みるよう丁寧に契った。 雨音に合わせゆるゆると契った。 雨が止まぬごとくたゆまず契った。 雨粒の数ほど幾度も契った。 雨とともに四十日と四十夜契り続けた末 共に果てる時が訪れた。 雨が上がった。 生きとし生けるものは須らく水底に沈んだと思われた。 ただ不恰好な方舟だけが残された。 このようにして 色事が世界を滅ぼしかけたと今に伝えられている。
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