天気雨の女

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「あら、めんつゆが無いわ、信太(しんた)買ってきて」 居間の畳で寝っ転がって漫画を読んでいたら、母に言われた。 「いやですー、日曜日の僕は忙しいのですー、することだらけー」 「どこが忙しいのよ、あたしはまだまだ作る料理があるのよ。 行ってきて!めんつゆが無いと、そうめん食べられないじゃない」 我が家の夏の定番、そうめんを食えないのは困る。 僕は仕方なく起き上がった。 「信太、不気味な雲が近づいてくるぞ、雨が降らないうちに行け」 居間に続いている縁側に座った祖父が言った。 「めっちゃ晴れてるじゃん、天気雨か通り雨程度だよ」 「信太、天気雨には気をつけろよ」 「は?」 「天気雨で雨宿りしてると、若くて綺麗な女性が近づいてくるんだ」 「なにそれ最高じゃん」 思春期、14歳の僕としては『綺麗なおねーさん』に弱い。 「自分が死んでることを自覚できないまま彷徨ってる」 「なにそれ怖い、おじいちゃん、自分の誕生日を明るくしなよ」 「もう充分だよ。優しかったおばあちゃん。しっかした息子。 気立てのいい嫁、良い子に育ってくれた孫。 おじいちゃんはね、申し訳ないくらい幸せだった」 「だった、じゃなくて、これからも、でしょ! 母さんが誕生日祝いのご馳走つくってくれてるんだよ。 よし、めんつゆ買ってきてやるぜ!」
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