天気雨の女

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「ででで、出た、ほんとに出た!」 僕の叫びを掻き消えすほどに雨音がトタン屋根に響く。 「こっちゃん、大きな声で返事して、雨音で聞こえない。 ねえ、こっちゃん、さっき雷がドーンって、すごかったでしょ? あれから、目が見えなくなったの」 女性が細い両腕で手探りしている。 僕は必死に女性と距離を取った。 「こっちゃん、なんだか、あちこち痛い、こっちゃん、そばにいて」 僕は何か言いたくても声が出なかった。 女性は、すさまじい姿だったからだ。 長い黒髪はバサバサになっていて、右側はちぎれるように短くなっていた。 その右側は乱れた髪で見えにくいが、真っ黒に変色している。 焼け焦げているのだ。 両腕は茶色くなっていて、下半身は細い両足も含めて綺麗だったけれど 履いているサンダルの紐が切れていた。 この人は、雷が落ちて死んだのだ。
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