天気雨の女

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めんつゆと、それから祖父の愛用の茶色に花柄の傘。 それを持って帰宅すると、家の中は騒然としていた。 「信太、おじいちゃんが倒れたのよ!意識がないの! 救急車がもうすぐ来るんだけど!」 ツユクサよりも青い顔をしている両親をみつめながら、僕は 冷静だった。 「そうか、雨が上がったから、二人で逝ったのか」 幻覚でもなんでもない。 祖父がいつも使っている傘が雨に濡れているのだから。 そういえば子供の頃に祖父から聞いたことがある。 「この傘はね、おばあちゃんと結婚する前に好きだった相手。 その女の人からもらった物なんだ。誰にもナイショだよ」 その相手と、天気雨で再会して、雨上がりに旅立ったのだ。 激しい雨のように両親が泣いている。 「おじいちゃん、料理もったいないじゃん、 めんつゆだって買ってきたのにさ、でも、でも......。 おじいちゃんも由紀子さんも、いまは雨の中じゃないんだね。 幸せに、雨上がりの空の下なんだよね......」 僕の心には曇空と青空が重なっていた。 ―完―
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