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◆◆◆
事実上、うちの親父がやってる闇金『ニコニコ金融』にたまたま立ち寄ったら、債務者が来ていて何だか揉めている。
俺は顔を出さずに成り行きを見守った。
陰からこっそりと聞き耳を立てたら、その債務者は商売で一旗揚げようと思って始めたが、上手く儲からずに経営破綻したらしい。
で、あちこち借り歩くうちに借金を積み重ねたが、案の定、返せずに利息だけが膨らんでいく。
「そりゃ、事情はわかりますよ、だけど……お宅は家や土地がありますし、あれを全部売れば返済できるでしょ?」
うちの社員(組員)が説得したが、なんだ、まだ金に変える物があるだけマシじゃねぇの。
「それは勘弁してください、身を粉にして働きます」
うちの社員(組員)に頭を下げて頼み込んだのは、40くらいのおっさんだが、その横に息子と思える中学生位のガキが立っている。
なにを思って親父についてきたのか、親父も親父だ。
こんな修羅場にガキを連れてくる奴がいるか。
ちょっとイラついた。
「いや、仲本さん、あの~それは甘い、早くしなきゃ利息が溜まっていきますよ」
うちの社員(組員)の言う事は正しい。
「そこをなんとか、長い目で見て頂きたい」
しかし、おっさんはしぶとく売るのを拒否する。
四の五の言わず、腹を決めりゃいいものを。
出て行きたいが、俺が出て行ったら見た目でヤクザだとバレちまう。
「無理ですって、あなたね、四面楚歌じゃないですか、資産を金にかえるべきだ」
すると、うちの奴(組員)がキッパリと言った。
よしよし偉いぞ、陰から褒めてやる。
「そんな……」
おっさんは打ちひしがれたが、借金したのはてめぇなわけだし、事情はどうであれ、返す目処があるならキッチリ返すのが道理だ。
「待ってください!」
すると、突然ガキが声を張りあげた。
「ん、なにかな?」
うちの(組員)はキョトンとして聞き返す。
「あの、借金のカタってありますよね? 俺がなります」
ガキはびっくりするような事を口にする。
「はあ~?」
うちの社員(組員)はポカーンと口をあけている。
「俺、本気です、売り専ってありますよね? あれをやります」
ガキはマセた事を言ったが、自らカタに飛び入り参加する奴なんざ、見た事がねぇ。
「いやいや、あの~僕、なに言ってるの? これはお父さんとの話し合いなんだ、君は大人しくしててね」
うちの(組員)は相手にしなかった。
当たり前だ。
中学生を売ったりしたらやべぇ。
いや、ちょい待て、そういう問題じゃないような……。
「父さんを助けたい、だから俺が働くって言ってるんです!」
けど、ガキは強気に言い放つ。
「だから~、君はまだ中学生だろ? 売り専で働けるのは18から」
「そんなの、誤魔化せばいい、俺、知ってるんだ、この店は裏にヤクザがついてるって」
ガキの癖に鋭いところを突いてくる。
つーか、闇金だし、ガキでもそん位はわかるか……。
「こら、裕之よしなさい」
「参ったな~、兎に角、お父さん、金を返済してください」
うちの(組員)は困っている。
「なんだよ、ヤクザだって事を誤魔化すのか? ふーん、なんかやばい事をやってるんだ」
ガキは恐れもせずに余計な事を言う。
「な、なにを言ってるんだい? うちはそんなんじゃ……」
「こら、やめなさいと言ってるだろ!」
うちの社員(組員)はしどろもどろになり、親父は焦ってあたふたしている。
どうせガキにはバレてるし、これはもう……俺が行くしかない。
「おい、そこのガキ、お前は邪魔だ、外に出てろ」
三つ巴の現場に割り込み、ガキに向かって命じた。
すると、ガキは俺の前に歩いてくる。
背が低いから俺を見上げているが、敵意剥き出しで睨みつけてくる。
「あなたはヤクザだな」
こんなガキが、俺に向かって堂々と言いやがった。
「あのな、残念だが違う、お前、さっきから聞いてりゃ生意気ばっか言いやがって、ガキはガキらしく、おうちに帰って勉強してろ」
ガキを相手にムキになっても仕方がないので、出来るだけやんわりと諭した。
「なあ、あんた、ヤクザなら話が早い、俺を買ってくれ」
けど、このガキは普通じゃねぇらしい。
俺を見上げて自分を売り込んできた。
「いや、さっきこの兄ちゃんが話しただろ? 18になってから言え」
全く~、近頃のガキは生意気を通り越してる。
「それじゃあ駄目だ、家も土地も……渡さない!」
ヒスを起こして喚き散らしたが、こりゃ、言う事を聞きそうにない。
「我儘な奴だな~、おい平井、今日のところはお帰り願え、日を改めて話し合いだ」
埒が明かねぇから、とりあえずお引取り願うしかねぇ。
うちの奴(組員)に声をかけた。
「はい、わかりました、仲本さん今日はこれで、近々また話し合いましょう」
「そうですか、はい、わかりました」
親父はホッとしたような面をして頭を下げる。
そのままガキを連れてドアに向かったので、俺もホッと胸を撫で下ろしていた。
「ヤクザ屋さん、俺、諦めねぇから!」
だが……ガキが不意に振り返り、俺を見て声を張り上げて言った。
「バカな事を言うな、飯食って風呂はいって、さっさと忘れろ」
呆れ返って言葉を返したら、親父に背中を押されて外に出た。
「葛西さん、今のガキ、凄かったっすね」
平井が驚いたように言ってきたが、最近のガキはマセてるとは言っても……確かに、あそこまで生意気なガキは滅多にいねぇ。
「ああ、あの親父も頑固だが、息子は相当変わってるな」
珍しいケースに出くわした。
こんな事は初めてだ。
調子が狂っちまうわ。
俺はぶつくさぼやいて店を出たが、肝心の書類を忘れていた。
まったく……変なガキに会ったせいだ。
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