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◆◆◆
3人で銭湯に行ったあの後、裕之は毎日電話をかけてくるようになった。
1日1回だけだが、俺だけじゃなく田西にもかけてくる。
ま、大した事じゃねぇから、あんまし気にしねぇようにした。
今夜もまた飲み会だ。
田西を引き連れてクラブに行った。
そこにはまた刈谷がいた。
こいつ、いっつも飲み会に来てるし、今夜はさすがにこねぇかと思ってたんだが、ちゃっかり来てやがる。
俺は田西と隣同士でソファーに座り、店の女に酒をついで貰ったが、刈谷の奴、酔っ払ってカラオケを歌いまくり、下手くそな歌を嬉々として披露している。
「兄貴……、耳栓……持ってくるべきでしたね」
田西が小声で言ってきた。
「だな……」
集まってるのは、刈谷と同格か下の奴らばかりなので、刈谷は遠慮なく歌を歌い続ける。
こりゃ堪らねぇ、ガチで騒音だ。
「おい葛西さんよ、あんたメリーゴーランド、見たぜ」
刈谷と同じ組の幹部、北原がニヤついて言ってきた。
「ああ、そうか」
どうせ笑うつもりなんだろうが、相手にするつもりはねぇ。
「なあ、ガキを連れてたらしいが、誰なんだ?」
北原は馬鹿にするような真似はしなかったが、ガキには興味があるようだ。
「そいつは話せねぇ」
刈谷より更に付き合いの薄い奴に話すわけがねぇ。
「ふーん、けどよ、子供なんか連れ回して、あんたひょっとして……そのガキで美味い汁を吸ってるんじゃ?」
「あのな、うちは薬すら禁止なんだぜ、で、ガキを食い物にするっていうのか?」
うちのやり方を知ってる癖に、バカバカしいにもほどがある。
「おお、そいつはわかってる、ただよ、最近は色々と厳しいからな、まともな事をしようにも、そう簡単じゃねぇ、法に触れる事をしなきゃ稼げねぇからな」
「ああ、そりゃ確かだが……残念だな、面白い話は聞けねぇぞ、なんにもねーんだからな」
「そうか、児童ポルノだとかなり稼げる、勿体ねぇな、へへっ、男でもショタなら結構売れるぜ」
「やめてくれ、お宅らがなにをしようが勝手だが、俺はそこんとこは真面目なんだ」
刈谷がショタコンって事は、他の奴らも似たり寄ったりなんだろう。
「へっ、またまたー、かてぇ事を言うなよ、俺はな、今高校生と付き合ってる」
今度は自慢か?
「で?」
一応聞くだけは聞いてやる。
「男だ」
やっぱり刈谷と同じだった。
「へえ、そうか、そりゃよかったな」
はっきり言って、どうでもいい。
「だろ? 高校生でもかなりいいぞ、ケツなんかぷりっぷりだしよー」
「ケツって……」
四七築組はやっぱ変態集団だ。
「俺が調教してやった、今じゃてめぇから尻を差し出すぜ、へへっ」
「ああ、そうか」
呆れちまうが、聞き流そう。
「お前もよ、中学生をモノにしたんだろ? なあ、おい……中学生って、相当いいんじゃねーか? な、どうなんだよ」
「ああ、いいな」
くだらねーが、適当に答えるしかない。
「ほらみろ、やっぱしやってるんじゃねーの、そんな事をしてちゃ、やべぇ事をしてるって思われても仕方ねぇよな」
「ま、兎に角……AVを作ったり、ウリをやらせたり、そんな事はしちゃいねぇ、それだけは確かだ」
裕之との付き合いを否定するわけにゃいかねぇ。
だからさもやってるように言うが、そこんとこは否定する。
「しっかしよ、あんたそっちにゃ興味ねーと思っていたが、意外だな、まぁー、女も悪くねーが、飽きるからな、たまにゃ男も悪くねぇ」
「ああ、そうだな……」
俺は奴が言った通り、男には興味ねー。
ただし、1度だけ経験がある。
兄貴分に言われて仕方なくやった。
あれは金絡みだったが、俺はやりたくなかった。
男に趣味がねー事もあったが、兄貴が連れてきたのは、まだ小学生だったからだ。
そのガキは既に兄貴が手ぇ出して調教済みだった。
そん時、しけたラブホテルにいたんだが、ガキは媚薬を飲まされてハイになってた。
俺は嫌だ、できねーと言って、頭を下げて勘弁してくれと頼んだが、兄貴は土下座する俺を蹴りあげた。
で、倒れたとこを胸ぐらを掴まれ、兄貴は真ん前で睨みつけ『俺は日頃お前に目ぇかけてやってる、その俺に付き合えねーと言うのか?』そう言って脅してきた。
どんだけ嫌な事でも、上のもんの言う事にゃ逆らえねぇ。
それがこの世界の掟だ。
だから、やった。
仕方がなかったんだ。
だから、ニコニコ金融で裕之が馬鹿な事を言った時、チラッとそん時の事が蘇った。
けど、即座に打ち消した。
俺は兄貴のような真似はしたくねー。
ましてや、親の借金を義務教育真っ只中のガキが背負い込むなんざ、そんな必要はどこにもねーんだから。
飲み会は賑やかな雰囲気でお開きとなり、俺は田西に送られて自宅へ戻った。
真夜中のマンションは人気がない。
ここは他人名義で借りてるが、事実上四七築組の持ち物だから審査はゆるゆるだ。
ひとりきりの部屋に戻るのは慣れちゃいるが、他の奴らみたいに女でも住まわせりゃ、少しは違うんだろうか……。
水を1杯煽ってひと息ついた。
と、不意に電話が鳴った。
ポケットからスマホを出して見たら、カシラからだ。
「うっ、カシラ……やな奴からかかってきた、なんなんだ?」
まさか呼び出しとかか? 今帰ったばっかしで勘弁して欲しい。
出たくねぇが、電話に出なきゃならねぇ。
『はい、葛西っす』
『おう葛西、もう帰ってたか?』
『はい、さっき戻ったところです』
『そうか、あのな、お前が片付けたあの仲本って奴だが』
あの件はカシラは関わってないが、何故今になって聞いてくるんだ?
『あの、それが……なにか?』
『おお、あのな、その息子の裕之ってガキが、うちに入りてぇって言ってきたんだ』
あっ……裕之の奴……。
早々とそんな真似をしやがって……。
にしても、おかしい。
『あの、本人が?……って言っても、カシラに会う機会はないっすよね?』
直談判しようにも、裕之がカシラに会う機会はねー筈だ。
『ああ、部屋住みの奴が言ってきたんだ』
『あっ……』
そうだった、うっかり忘れてたが、裕之は知り合いがいると話していた。
『まぁー、うちとしちゃ、人員は喉から手が出るほど欲しい、ただな、まだ中学一年生だ、ちょいと早すぎるな、せめて16だ』
『そうっすね……』
どのみち俺は反対だが、今それを口にする必要はない。
『ただな、1度会ってみたい』
だが、カシラは妙な事を言い出した。
『えっ、そりゃまた……どうしてですか?』
今から面接ってわけじゃないだろうし、そもそも面接なんかやってねぇ。
『俺な、こないだ四七築組のカシラに誘われてよ、売り専ってやつに言ったんだが、なかなか面白かった、だからよ、ちょいと気になった』
四七築組……どこまで迷惑なんだ。
というより、そういう意味で興味を持たれちゃマズい。
『いや、しかし……相手は中学生っす、やめた方がいい、立場上、それをネタに足を掬われるって事もありますんで』
もっともらしい理由をつけて説得した。
カシラに限ってそんな事はないと思うが、なんせこの稼業は色事に長けた奴らが多い。
四七築組のカシラは男を囲ってると聞いたし、そそのかされて悪い気を起こしたら事だ。
『極秘に会えばいい、うちがやってるラブホテル、あそこなら人目に晒される事もねー』
『えぇ、ラブホはちょっと……』
マズい……非常にマズい。
『なにもしやしねぇよ、ただ会って話をするだけだ』
『いや、しかし……、中学生をそんな場所に連れてくのは、教育上よくねーんじゃねーかと』
『お前な、今は小学生が援交する時代だぞ、俺はそんな事でパクられるのはごめんだ、だからやらねーが、他所の連中は小遣いやって楽しんでる、なもん、気にするこたぁねー』
『そ、そうっすね……』
参った。
これ以上上手い言葉が出てこねー。
『おめぇ、ガキと仲良くしてるそうじゃねぇか、まぁお前が男に興味がねぇ事ぁ知ってる、だから何故関わってるのかは知らねぇが、そんな事ぁどうでもいい、だったら話ははえー、お前が連れてきて同席しろ』
『え、どうしても会いたいんで?』
『だから言ってるんだろ』
『あの……本当になにもなしで……って事ですよね? いや、カシラのお気持ちはわかりましたが、勝手な事をやらかしたら、おやっさんに叱られますんで』
もう止めようがないが、せめて、なにもしねぇって事を約束して貰いてぇ。
『ああ、なにもしやしねぇ、約束してやる、その代わり……親父には内緒だからな』
『はい、わかりました、じゃあ、日時を言ってくださりゃ……俺が手配しますんで』
手配したくねーが、するしかない。
裕之の奴……まだガキの癖して、余計な事をするからだ。
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