13番目の呪われ姫とご挨拶。

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「ほら、初対面の私とベルさん、ハルさんの共通の話題って"伯爵"しかないじゃないですか」  初対面で場が盛り上がる秘訣は共通の話題の選択だと思うんです、と持論を展開したベロニカは、 「私常々思っていたんですよ。伯爵って秘密主義じゃないですか? 家で伯爵のことを待つ妹さんや弟さんも、私同様さぞ言葉足らずな伯爵にやきもきしているんじゃないかな? って」  なのでこの5年で私の収集した伯爵情報をお二人に一挙大公開しようかなって♪ととても楽しげに暴露カードをシャッフルする。 「……なんでそうなる」 「え、だって普通に馴れ初め話したって面白くないじゃないですか? と、いうわけでお二人にカードを引いてもらいつつ、ビンゴ形式で暴露します!」  ちなみに第2回も計画中ですと宣言するベロニカ。 「えー何それ!? すっごく興味ある!!」  私、このお兄様の学生時代の友人知りたい! とベルは興味津々だ。 「乗るんじゃない、ベル」 「兄さん、僕はこの"失敗談"が聞きたいな」  兄さんでも失敗することがあるんだね! とキラキラした眼差しで伯爵を見上げるハル。 「……弟の笑顔が眩しい」  じゃなくて、と深い深いため息をついた伯爵は、 「待った、ベロニカ。とりあえず言いたい事はいろいろあるが、普通結婚の挨拶でやる事じゃないって事だけは確かだ!」  やめろと制止しつつベロニカからカードを取り上げようとする伯爵。  が、まるでダンスでも踊るかのようにひらりと躱したベロニカは。 「別に良いではありませんか? 暴露大会なんてただの"事後報告"ですよ」  結婚、という割と人生の一大イベントに分類される出来事ですら、伯爵的に事後報告程度で済むのでしょう? と猫のような金色の目を瞬かせ楽しそうに問いかける。 「……つまり、事後報告で済ませようとした件について根に持ってるってことか!?」 「いいえー、家長に異議を唱えたりしませんよ? ただ心底伯爵の反応を楽しんでいるだけで」 「なおタチが悪いわ!!」  そう言った伯爵は、ようやくベロニカを捕まえて、 「ベロニカ。実は結構怒ってるだろ」  とため息を漏らす。  実際、今までのベロニカとの思い出なんて言えない事の方が多い。  ベロニカが呪われ姫本人だとか。  伯爵が呪われ姫の専属暗殺者だった、なんて。  冗談みたいな出来事を言えるわけもないのだ。 「怒っている、というより私なら大切な人から大事な事を事後報告で済ませられたら寂しいなって思うのです」  結婚に拘らずとベロニカは猫のような金色の瞳を瞬かせ、静かな口調でそう告げる。 「私は伯爵を愛しているので、あなたが仏頂面でも、愛想がなくても、伝えるのが下手でも構いませんが、大事な方に対しての言葉を惜しんで欲しくないのです」  そう言ってベロニカは伯爵の後ろにいるベルやハルの方を見る。  自分との時間を取るために、きっと彼等は今まで伯爵と過ごすはずの時間を我慢した。  ずっと、ではないにしろその時間はけして短くはない。 「伯爵が大事にしているものは、私も大事にします」  あなたの妻になるのですから、と言ったベロニカは、 「なので、伯爵が話さないなら自爆テロも辞さない覚悟ですよ」  と暴露カードを片手に伯爵の黒曜石の瞳に主張する。 「第一、伯爵。あなたがそんな態度ではベルさんが将来いきなり"契約婚約しました!"とか、ハルさんが"偽装結婚はじめました!"とか言ってきても何にも反論できませんからね?」  いいんですか? と伯爵に金色の目をじとっと向ける。 「ベロニカがいうと本当にありそうでこわいんだけど……アウトだな」  ベルやハルがいきなりそう言ってきたら、流石に容認してやることはできないと伯爵はしぶしぶ頷く。 「伯爵。私、ご挨拶って基本だと思いますよ」  家族だからと甘え過ぎるのも良くないかと、と言ったベロニカは、 「キチンと私のことをお義母様に紹介していただけますか?」  にこにこにこにこと笑いながら伯爵に問いかける。 「分かりました。すみません、反省しています」  全面的に白旗を上げた伯爵は、その場ですぐ母に向けて近々領地を訪れる旨を記載した手紙を書いた。
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