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 私には、前世の記憶がある。  かつて私はとある上流階級の男の妻だった。ここから遠く離れた海の向こうの異国が、私の暮らしていた国だ。政略結婚とはいえ私は結婚相手である夫を愛していたが、夫には既に愛する女がいた。身分の低さゆえに正妻にすることはできない恋人を妾として囲う。古いしきたりのあの国では、よくある話だ。  もちろん結婚生活は最初から破綻していた。夫は妾の家に入り浸り、本宅には帰ってこない。子どもが生まれれば何かが変わるかもしれないと思っていたが、なんと同じ時期に妾の女もまた子どもを孕んでいた。せめて私が跡取りを産んでいれば。だが、生まれた子どもはどちらも女の子。同じ性別なら、夫が妾の娘を可愛がるのは自明の理だった。  だから私は、私の娘と妾の娘を入れ替えた。妾が死に、夫が妾の娘として私の娘を本宅に連れ帰ってきてからは、喜んで世話をする毎日。馬鹿な夫は妾の娘として私の娘を可愛がり、私の娘として育てられた妾の娘は、誰からも顧みられることなく虐げられた。だが、そんな自分勝手な生活が長く続くことはなかった。私は、報いを受けたのだ。  私が虐げた妾の娘は、辺り一帯を守護していた土地神に見初められた。そして土地神は愛した娘を虐げた私を許さなかったのである。土地神が去り、雨の降らなくなった責任を問われて私は雨乞いのための贄となった。まあ、私なんぞを贄に捧げたところで、天の恵みが戻ることなどなかったのだけれど。
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