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 終わりのない煉獄でずっと生きていくはずが、何の因果か私は生まれ変わっていた。かつての記憶を持ったままで。  私が再び生を得た場所は、かつて暮らした国とは異なる海の向こうの国。新しい世界に、胸の高鳴りを感じていた。まさか、私は許されたのだろうか。だが、そうではないとすぐに気が付かされた。  私には、この国の守護神によって授けられる加護がなかった。土地神の呪いかと納得する。かつて私が妾の娘を虐げたように、私は実の家族に虐げられた。まあ、それはそうだろう。貴族の娘としての利用価値がなければ、家族からの扱いなんてこんなもの。前世と同じように政略結婚の駒となり、妻のいない子持ちの貴族男性の元に嫁いだ。 『お前を愛することはない。お前の仕事は、娘を育てることだと理解しろ』  夫は当然のように、私との子どもはいらないと言った。これも土地神の考えそうなことだ。前世の振る舞いを見れば、私に子どもを産む資格はないと判断するだろう。散々可愛がったはずの前世の実の娘は、私を憎み、呪詛をまき散らして死んでいったのだから、子どもを産むつもりなんてさらさらなかったのだけれど。  ただ予想外だったのは、結婚したばかりだというのに夫があっけなく事故死してしまったことだ。この家の跡取りは義娘だが、ぼんやりしていれば強欲な親戚たちに財産を乗っ取られてしまうに違いない。まだ幼い義娘を前に覚悟を決めた。  前世で私は、浮気をした夫を憎み、妾を憎み、妾が産んだ子どもを憎んだ。だから今世では、実の家族に愛されず、結婚した夫に愛されず、義理の娘にも愛されない一生を過ごすに違いない。味方などいない中で、血の繋がらない義理の娘をたったひとりで守り育てていく。それが私に科せられた贖罪なのだ。
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