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回復した草太は、秋造が雨乞い姫を連れて行こうとしたことを村長たちに話した。雨乞い姫がいなければ秋造も金に目がくらむことも無く、龍神様の罰が当たって死なずに済んだ筈だ、雨音も不自由な思いをせずに済むのだ、と。村長は秋造を気の毒に思い、皆で金を集め娘の薬を買った。
草太は、父の吉助と相談してため池を作ろうと村に持ち掛けた。
人を雇ったり、時間もかかる事を理由に村長たちは渋ったが、一番に支持したのは雨音の父だった。
雨音の父は、娘を避けて来た事を後悔していた。
雨音のせいで妻が死んだと思っていた。憎しみのあまり娘を殺さない様に自ら距離を取っていた。
だが、気持ちが落ち着いてみると、娘に何一つしてやれていない事が悔やまれていた。一人でもやると雨音の父は言った。
昔からの習わしを変える事で龍神の祟りがあるのではと恐れる者もあり、話し合いは数ヶ月続いた。最後には村長がやると決め、工事の指導者や作業者を雇った。草太も村の者も工事に当たった。だが農作業をやりながらの工事である。揉めては中断し、それどころか妨害する者もいた。そういった者は最後は村を出て行く。隙間を埋める様に雇われた者が村に住む様になり工事がまた動き出す、を何度も繰り返した。完成までに十年が掛かった。その間、雨音は自分が最後になるという思いで雨乞い姫を全うした。
降っていた通り雨が止んで、幸と、父の草太が外に出て来た。
「にじが出てるよ!」
幸が、空を指さして言った。雨上がりの空に、うっすらと虹が架かっていた。
「本当だ! 綺麗だね」
福を抱えて、母の雨音が出て来た。
「ほら、虹だよ」
福は、きょとんとして、母の顔を見る。福をゆすりながら雨音が空を見て言う。
「綺麗だねえ」
福は、ゆたゆたと腕を動かす。その姿が愛しくて、雨音は満面の笑みを浮かべる。
この村には、かつて雨乞い姫と呼ばれる者がいたが、今はもういない。
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