3.草太

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「ごめんね……」  雨音が、ぽつりと言った。 「いいよ」  草太が、何でもない、という風に応えた。  二人は、誰もいない田んぼの横の小さな道を屋敷に向かって歩いている。 「皆、楽しそう……」 「うん」 「あそこに居場所がないって思って……」  草太は、答えられなかった。思わず立ち止った。 「ごめん」  雨音が振り返った。 「なんで草太が謝るの?」 「だって……、雨音に寂しい思いさせた……」  雨音は微笑んで、手拭いを取った。潤んだ瞳に、祭りの炎の明かりが小さく入り、綺羅綺羅と輝いていた。 「草太は悪くないよ。行きたいって私も思ってたもん。でも、行ってみたら、なんだか……」  草太は、雨音の手を握った。  雨音は、草太を見た。  草太は、雨音に寂しい思いをさせたくなかった。だが、どうしたらいいのだろう。村にいる事で雨音が辛いなら、いっそ、二人で村を出るか。  そこまで考えて、草太は俯いた。子供二人で何が出来る。雨音をもっと困らせる事になるだけだ。 「俺、雨音の事が好きだ」 「え?」  雨音が、目を見開いた。  草太は、雨音の顔を見た。  雨音は、嬉しそうに微笑む。 「私も、草太のこと」 「お前ら何やってる」  突然、大人の声が聞こえて、二人は驚いて声の方を見た。
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