2.雨音

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「もう鬱陶しくて嫌なんだけど」  居間に戻って来た世話係の女が、夕げの支度をしている女に愚痴った。 「何? 今日も夕飯抜きなのって、駄々こねられた訳じゃないんでしょ?」 「反抗なんかしないわよ、あのガキ。暗いし、うざいし、ろくに喋んないし。気持ち悪い」 「まあ、そう言わない。あいつの世話をやるって名目であたしら特別に多く米貰えるし。たらふく飯も食えるし」 「あいつの分までね」 「いらないでしょ。あのガキ働いてないんだから」 「そうよねえ」  外から交代の女が慌てて入って来た。 「ねえ、さっき男の子が覗いてたわよ!」 「チヨ、早いのね。男の子?」 「雨戸の所にいたの!」 「なに、あのガキ、もう男引き込んだの? あちらの発達は早い様ね」 「ははは!」  聞こえよがしに大声で話す女たちの声は、自分の部屋にいる雨音にすべて聞こえていた。  言っている事の意味が多少分からなくとも、見下され蔑まれている事は分かる。  雨音の心臓がどくどくと鳴る。  息が苦しかった。寂しく、悲しかった。  鼻がつんとしてくる。  泣いてはダメ。今泣いたら、明日の儀式のときに泣けなくなる。そしたらまた怒られる。我慢しなきゃ。  雨音は必死に両手を握り締めた。    翌日の儀式で、雨音は無事に泣く事が出来た。  しとしとと雨が降り出し、やがて勢いを増し、朝まで降り続けた。 「恵みの雨だ!」 「慈悲の雨だ!」  と、誰もが喜んだ。
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