3.草太

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3.草太

「雨音!」  儀式の翌日、嘘のように晴れた昼下がり、草太は隙を見て仕事を抜け出した。ばしりと雨戸を閉められた事などすっかり忘れて、全速力で駆けて行った。    雨戸の隙間から中を覗くと雨音の布団が見えた。まだ寝ている様だった。 「雨音? 寝てんのか?」  もぞりと布団が動いた。 「草太?」  雨音が上半身を起こした。雨音の顔を見て草太は胸が苦しくなる。雨音の顔色は見るからに悪かった。 「雨音、具合悪いのか?」  雨音は、何故か心がほっとして目が潤んだ。 「草太……」  苦しい。  全部吐き出したくなった。 「すごく疲れた」 「そっか……。大変なんだな」 「うん。すごくつらい」  草太は、申し訳ない気持ちで一杯になった。 「雨音、ごめんな」 「なんで草太が謝るの?」 「だって、俺たちのせいで、雨音は辛い思いしてるんだ」 「でも、雨がいるんでしょ」 「うん……この辺りは雨が少ないからって、父さん言ってた」 「だから、いいの」 「いいのか?」 「……うん」  草太は、雨音は嘘を付いていると思った。だが、自分に何が出来るのだろう。 「雨音、時々話そう」  雨音の顔が、微かに明るくなった。 「いいの?」 「うん。嫌な事あったら、俺に吐き出せよ」 「うん。ありがとう。ありがとう、草太」  雨音は、零れる程の涙をためて微笑んだ。  草太は、雨音を励ます様に、にかっと笑った。
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