3.草太

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 賑やかな声が山々に反響して屋敷まで聞こえてくる。駆けて来る足音が重なって聞こえてきた。  雨音の顔が、明るくなる。    草太が雨戸に取りついた。 「雨音!」  雨音が、雨戸に近寄って来る。 「草太」  雨音は、ほっとしたように笑顔になる。  草太が、にかと笑う。 「祭りに行こう!」 「でも、外に出たら怒られる」 「今日は皆祭りに行ってる。雨音だけ行けないなんておかしいよ」  雨音は、黙り込んだ。本当は祭りに行きたかった。 「雨戸から出よう!」 「え?!」 「来い!」  雨音は、草太と行きたいという気持ちに押され雨戸を開いた。飛び上がって雨戸に掴まり這い出た。と、頭から草太の腕の中に転げ落ちた。 「きゃ」 「わっ!」  草太は受け止めながらも、後ろによろめいて雨音の下敷きになる恰好で倒れた。  雨音は、慌てて草太から下りる。 「草太、大丈夫?」 「いてて」  草太が、頭をさすりながら上半身を起こした。今にも雨を降らしそうな雨音に笑いかけた。 「大丈夫だ!」 「草太……」  草太は、懐から雨音に履かせようと持って来た赤い鼻緒の草履を取り出した。 「足出して」  草太は、裸足の小さな白い足に草履を履かせた。少しだけ、ぶかぶかしてるように見えた。 「ちょっとおっきかったかな」 「ううん。ありがとう」  草太は、雨音の腕を持って支えながら、自分も立った。 「行こう!」 「うん」  二人は、手を繋いで駆け出した。  
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