詩を歌えば雨上がり

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1 「雨って嫌な感じするけど、実は良いものなんじゃない?」 友達の美咲に問いかけると、彼女は首を大きく左右に振った。 「雨なんて良いものなんかじゃないよ」 「そうかな?水たまりで遊んだり、水たまりに映る晴れた空とか色々あるじゃん!」 「雨をそんなに楽しいものだって認識するのは奏だけだよ。今の皆は心のなかにまで雨が降ってるんだから」 美咲の言葉が引っかかった。地球環境だけじゃなくて、心の中にまで雨が降ってるの?だから皆暗い顔をするの?私はいつも笑顔なのに、私の心の中には雨が降ってないってこと? 頭の周りには疑問符が飛び回る。美咲は小さくため息をついて再び歩き出す。 「あ、待ってよ」 「...」 「美咲、なんか歌お!」 「奏だけで歌いなよ、歌う気持ちじゃない」 歌う気持ちにならないのはやっぱり心の雨のせいなのか、天気の雨のせいなのかがわからない。だけど私は詩を歌う。 「あの日見た空に虹がかかってる、日差しが水を輝かせる、キラキラとした宝石みたいな水が未来を映し出してるー」 適当に思いついた歌詞にメロディーを付けて歌う。やっぱり歌うのは楽しい。私は歌うのが大好き。周りの人を見ると、こっちをチラチラと見る人がやたら多い。 皆も歌えばいいのに。そんな事を考えていた。 「奏は歌うの好きだねー、歌声も綺麗だしさ。羨ましいよ」 美咲に唐突に言われてびっくりした。美咲も歌えばいいのに。そう言うと心が、とか、歌声に自信がないとか。 色々と言い訳を言われる。そんなことを言われると私はいつも同じことを思う。 「あーあ、私が歌ったら雨が上がる能力欲しいわあ。まあ、そんなこと願っても意味ないかもしれないなあ」 「そんなわけないよ!奏の名前の由来は詩を歌って笑顔を作ることなんでしょ?詩を奏でる。そうなんでしょ?」 美咲が私の目の前に飛び出して腕を組んで言った。 「そんなこと言ったって、詩を歌っただけで天気が晴れるわけないじゃん。神様じゃないんだから」 そう言うと、美咲はため息を吐いて呟いた。 「なんで天気を晴れさせようとしてるの。天気はまだしも、心の雨を晴らすことはできるでしょ」 確かに。私は神様でも仏様でもないから天気を変えることができない。だけど、皆が感動したりする詩を歌えば心の雨を晴らすことができるかもしれない。 この時私は決めた。歌声を鍛えて、雨を晴らして笑顔をつくる。でも私一人じゃできないから美咲にも協力してもらおう。 「美咲、協力して!」 「え?歌えないよ?」 「歌えなくても、美咲が書く詩は美しいんだから!詩を書くだけでもいいから協力して!」 両手を合わせてお願いポーズをすると、美咲は少し考えて協力してくれると言った。 この日から美咲と私の歌って雨上がり大作戦が始まった。
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