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*  ランチタイムを外して真木食堂を尋ねると、人の良さそうな夫婦が対応してくれた。青山とも同年代で、長年地元で店をしてきたということもあり、周囲からの評判もいい家族のようだった。  事故に遭ったという長男も、奥からやってきて、青山と橋本は車椅子を見てちらりと目を合わせた。玉田の奴、大事なことを言わなかった。そして娘もそんなことを言ってなかった。 「突然すみません。幌戸警察の青山と橋本です」  名刺を出すと、長男は少し緊張した面持ちで青山を見て、軽く頭を下げた。 「お電話でもお伝えさせていただいたんですが、先日の加瀬木山で見つかったご遺体の件で、周辺の方々にお話を伺っていまして」 「はい」  真木時生は落ち着いた声で答えた。 「事件のことはニュースなどで見られましたか?」  そう言うと、真木夫妻も長男もそれぞれうなずいた。 「ここは加瀬木山に入る入口ですし、何か不審なこととか思い当たればお聞きしたいんですが。だいたい……2週間ほど前なんですが。10月の初旬になります」  青山が言うと、真木義明、晴子夫妻はお互いをちらりと見た。長男は少し視線を下げたまま、まっすぐ前を向いている。 「そうですね……特に変わったことはなかったと思います。山を超える道路は、年中あちこち補修してるんで、トラックも比較的多いですし、そういう工事関係者はお客さんとしてよく来てくれますが……」 「そうみたいですね。工事関係者には既にお話は聞いてるんですが、重ねての質問で申し訳ありません。あと、被害者の本庄龍彦さんなんですが、ご面識などは?」 「えー……どうでしょう。お客さんとして来られたことがあるかもですが、常連さんとしては記憶にはないですね」  夫妻は互いに確認するようにうなずき合って答えた。 「そうですか。ええと……時生さんは、何か思い当たることはありませんか?」  青山が言うと、時生は目を上げた。 「鹿の角、見ます? それで来られたんですよね?」  隣で橋本がやべっという顔をして、青木は橋本の膝を小突いた。こらこら。 「そうですね、それもあります」  青木は表情を崩さず、時生を見た。 「現場に鹿の角があったので、そういった鹿の角を所持されている方に、盗難、とかされていないかも聞いてるんですよ」 「そうなんですね」  時生は顔色も変えずに言った。真木夫妻も薄々感づいていたのか、心配そうに青山たちを見た。  実際、鹿の角の所持者、といっても、そんなものが特定できるわけがない。天野山脈に限らず、幌戸の山では、春にかけて山に入れば大小の鹿の角は落ちている。それを勝手に持って帰るのは、違法でもなんでもない。わざわざ遠方から取りに来る趣味の人間だっている。 「僕の部屋にあります」  時生が車椅子を回転させ、青山と橋本は真木夫妻に目で許可を求めた。夫妻はうなずき、警察官2人と夫妻は席を立った。
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