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学習センターの将棋教室に生徒がいない時間、講師の元棋士も暇なので、無料で対戦してくれる。時生はたまに彼らの暇つぶしに付き合うことがあった。
「時生は強くなったなぁ。ここに来るまでルールも知らなかったのに」
脇で見ているシニアセンターから派遣されている清掃スタッフの老紳士が言う。
「先生がいいから」
時生が言うと、元棋士は「だからって手加減しないぞ」と言って笑いが起きた。
「本庄さんも時生と勝負するの楽しみにしてたのにな」
将棋教室には何人も口だけ出す野次馬先生がいたが、殺された本庄龍彦はその1人だった。時生は彼らの名前も年も知らなかったが、その中の1人が殺害されたとなると、野次馬たちにもショックが広がっていた。
「ボロ勝ちできるからでしょ。僕だって1回ぐらい勝ちたかったよ」
「そうだな、気の毒になぁ」
周りにいた数人が、遺体で発見された本庄の思い出話をした。
早く犯人が捕まるといいとか、本庄さんの奥さんは気の毒にとか、そういう話はよく聞いた。みんな友人を悼んでいた。
「さて、そろそろ勉強しないと先生に怒られるんじゃないのか?」
元棋士がからかうように言う。
「リフレッシュも必要って言われてる」
「リフレッシュが多すぎるって怒られるんじゃないか?」
と、また笑いが起きる。
時生は基盤を眺めて、考えこみ、それから「参りました」と頭を下げた。
元棋士も静かに頭を下げ、それから時生を見て「強くなった」と褒めてくれた。
そろそろ倫子が来るので、2階に行っておいたほうがいい。
でもいつか勝ちたいよなぁと時生はエレベータホールに進みながら思った。
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