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翔太が付き添ってくれることになって、その週末、天気も良かったので事故現場に出かけることにした。
「実は事故以来、初めてです」
時生が言うと、後部座席の隣に座った倫子は目を丸くして、それからうなずいた。
「そうですよね……用事もないですよね」
「この先にオフロードバイクのコースがあるんですよ。ちゃんと整地されたとこで。中学のときに通ってました」
時生は前を指さした。
「何だっけ、プロの人が自分の練習用に作って、アマチュアにも解放したんだっけ」
翔太が言って、時生はうなずいた。
「そう。めちゃくちゃ格好良くて、痺れた」
「その人はもう引退しちゃったんだよな」
「うん。兄弟でやってたけど、お兄さんは2年ぐらい前に海外行っちゃって、弟さんが引き継いでやってる」
「車椅子でも使えたらいいのにな」
「もうちょっとオフロードで走れるようになったら、30分とか借りてみたいな」
「いいねぇ、目標ができたじゃないか」
翔太が嬉しそうに言って、時生は苦笑いした。夢物語だ。
「次は法律違反はしないでくださいね」
倫子がたしなめるように言って、時生は頭を掻いた。
「はい」
山道の途中で翔太は車を止めた。
オフロード車椅子を下ろしてもらい、時生はそれに乗った。
倫子はその介助を興味津々に眺め、後で自分も車椅子に乗ってみたいと言った。
「これ、ちょっとクセあるよ。乗るだけだったらいいか」
翔太が笑って言って、時生も興味を持ってくれたことが嬉しくてうなずいた。
「現場の近くまではこれで行けるけど、ホントの現場はちょっと幅が狭いんだよな。だから、最後は担いでいく」
翔太がリュックとストックをセットして言って、時生は「どこまでもありがとうございます」と頭を下げた。
「早く義足歩行をマスターしてくれ。今、時生、練習中なんだよ」
翔太は最後に倫子に説明して、ニコッと笑った。
倫子も興味深そうにうなずいていた。
「あと、コレね」
翔太は倫子にも蛍光オレンジのベストを渡した。彼のリュックにも、時生の車椅子にも鈴がついていて、チリンチリンと音が重なって鳴った。
「そっか。次は自分の持ってきます。私、猟のお手伝いもたまにしてるので」
倫子はベストをつけながら言った。
「プロじゃん」
翔太が驚いて言った。
「行くよ」
時生は2人がこれ以上仲良くならないうちに、歩き出そうと促した。
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