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 こんなところに誰が。  そう思ってミツルが見慣れない車を見ていると、人の声がした。 「あ、ミツルさん」  真木時生が言って、ミツルは目を丸くした。そんなはずない。 「ミツルさん、僕、病院に運ばれたけど、元気になったんだよ」  時生が言って、ミツルはほっとした。そうなのか。 「イワサキパークの人だよ、ミツルさん。翔太さんは会ったことあるよね。ミツルさん、こっちは青山さん」  車椅子で時生がやってくる。 「どしたの? 点検?」  そう言われたので、ミツルはうなずいた。「そう」  青山。  ミツルは時生が言った相手を見た。彼女もペコリと微笑んで会釈する。こんにちは、と言ってきたので、こんにちはと返す。隣にいる翔太も同じようにした。 「何してた?」  ミツルは眉を寄せた。 「あ、事故のあったとこ見てたんだよ。ミツルさん、パークって、誰もいないときだったら、端っこの方、貸し切ったりできる?」 「かしき……パークは使えない」 「夏になってからでいいんだよ」 「パークは、危ないから使えない。兄ちゃんもいない」  ミツルは悲しくなってきた。もうダメかもしれない。  そこで翔太が割って入った。 「ミツルさん、わかったよ、わかった。時生、夏になってから話をしよう」  時生はうなずいた。そしてミツルを見る。 「トオルさん、元気?」  ミツルはそう聞かれて感情を抑えきれなくなった。 「知らない! 僕は知らない!」 「ミツルさん、大丈夫。時生、ちょっとあっち行ってな」  翔太がミツルの肩を抱いて言い、時生が気まずそうに青山という若い女性と離れた。 「ミツルさん、最近、山も騒々しくて困ってるよな。誰か相談できる人はいる?」  翔太が聞いて、ミツルは震える肩と拳をゆっくり落ち着かせた。 「いない」 「僕、困っている人を助けてくれる人を知ってるから、連絡してもいいかな」 「警察?」 「違う。相談に乗ってくれる人だよ。困ったときにどうしたらいいか聞ける人」  先生とか兄ちゃんとか。もういない。  ミツルは悲しくなった。一人で考えないといけない。  首を振ると、翔太は肩をポンポンと叩いてくれた。 「わかった。じゃぁ、困ったらここに連絡くれる? ケアワーカーって言って、何でも相談できる人。例えば、パークをやめたいけど、どうしたらいいかわからないとかでもいいし、別の仕事を探したいとかでもいいし、何か別のことでもいい」  翔太はそう言ってカードをくれた。ミツルはそれを受け取って番号を眺めた。 「裏にメッセージのアカウントもある。あと、僕に連絡くれてもいい」  ミツルは目を上げた。優しそうな目がうなずいて答えてくれる。  ミツルは頷き、それからカードをしっかり握った。
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