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「時生、ヒマリの友だちの青山倫子ちゃんって覚えてるか?」
サトルは電話をかけてきて言った。ヒマリというのは、いつの間にかできていたサトルの彼女だ。幌戸大の学食にいた女子グループの1人。
時生はもちろん覚えていた。ショートカットのすらっとした人だった。髪の毛の一部がピンクだったので印象に残っている。大人しそうな、でも主張の強そうな不思議な人だった。
「ジビエの店の人で」
「そう」
「野生動物と人間の共生を勉強してる人。俺の対岸にいる人」
「そう、でな。対岸のおまえに話を聞いてみたいってさ。良かったらって、すごく低姿勢で言われた。獣の食害に遭ってる人は何人も知ってるけど、野生動物と事故った奴はまだ知り合いにいないらしくて」
「被害者の会、紹介しようか?」
「そんなのあるのか?」
「探せばあるだろ。えー、話ってインタビュー的な?」
時生は頬杖をついた。実験動物みたいな感じだろうか。取材的な感じかな。
「詳しいことは聞いてない。ヒマリが一緒にいたときだったからさ、断れなくて。ヒマリはトモちゃんの味方だけど、俺はおまえの味方だからよ……だから、一応通したけど、断ってもいい」
サトルが言って、時生は考えた。
「そうだな……なんか、お礼みたいなのはもらえるかな」
「金か? おまえ、そういう奴だっけ? そんな困ってんの?」
「いや……たぶん、今、『ホタテフェア』やってんだよね」
「どこで?」
「幌大の学食」
「ははぁん」
サトルが言って、時生はスマホで幌戸大のサイトを開いた。学食のページには美味そうなホタテソテーのバナーが貼ってある。ほら、やっぱりフェアをしている。
「極上ホタテづくし定食、限定10食で手を打つって言っておく」
サトルも検索したらしく、一番高いメニューを言った。
「ホタテラーメンでいいけど」
「極上って言っとけ。任せろ」
サトルがウインクするみたいに言って、時生は少し後悔した。がめつい奴だと思われたらどうしよう。
「向こうが一瞬でも渋ったらラーメンで」
時生が言うと、サトルは「わかってる」と、もう何も言うなという感じで言った。
というわけで、時生はその週末、幌戸大の食堂「こもれび」で青山倫子と会うことになった。
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