2/6

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「時生、ヒマリの友だちの青山倫子(ともこ)ちゃんって覚えてるか?」  サトルは電話をかけてきて言った。ヒマリというのは、いつの間にかできていたサトルの彼女だ。幌戸大の学食にいた女子グループの1人。  時生はもちろん覚えていた。ショートカットのすらっとした人だった。髪の毛の一部がピンクだったので印象に残っている。大人しそうな、でも主張の強そうな不思議な人だった。 「ジビエの店の人で」 「そう」 「野生動物と人間の共生を勉強してる人。俺の対岸にいる人」 「そう、でな。対岸のおまえに話を聞いてみたいってさ。良かったらって、すごく低姿勢で言われた。獣の食害に遭ってる人は何人も知ってるけど、野生動物と事故った奴はまだ知り合いにいないらしくて」 「被害者の会、紹介しようか?」 「そんなのあるのか?」 「探せばあるだろ。えー、話ってインタビュー的な?」  時生は頬杖をついた。実験動物みたいな感じだろうか。取材的な感じかな。 「詳しいことは聞いてない。ヒマリが一緒にいたときだったからさ、断れなくて。ヒマリはトモちゃんの味方だけど、俺はおまえの味方だからよ……だから、一応通したけど、断ってもいい」  サトルが言って、時生は考えた。 「そうだな……なんか、お礼みたいなのはもらえるかな」 「金か? おまえ、そういう奴だっけ? そんな困ってんの?」 「いや……たぶん、今、『ホタテフェア』やってんだよね」 「どこで?」 「幌大の学食」 「ははぁん」  サトルが言って、時生はスマホで幌戸大のサイトを開いた。学食のページには美味そうなホタテソテーのバナーが貼ってある。ほら、やっぱりフェアをしている。 「極上ホタテづくし定食、限定10食で手を打つって言っておく」  サトルも検索したらしく、一番高いメニューを言った。 「ホタテラーメンでいいけど」 「極上って言っとけ。任せろ」  サトルがウインクするみたいに言って、時生は少し後悔した。がめつい奴だと思われたらどうしよう。 「向こうが一瞬でも渋ったらラーメンで」  時生が言うと、サトルは「わかってる」と、もう何も言うなという感じで言った。  というわけで、時生はその週末、幌戸大の食堂「こもれび」で青山倫子と会うことになった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加