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 車椅子になってまで、危ないことをしなくても、と母は反対したが、父と姉は味方だった。とはいえ、母の抵抗も最初のうちだけで、時生がそれで生きる元気が出るならと、母も今では支援してくれている。  そもそも、オフロード用の車椅子を手に入れたからといって、危険なわけではない。  時生が好きな山に入れるというだけだ。もちろん、ちょっとした坂も岩場も進んでみることはあるし、いずれは宙返りだってできるんじゃないかと思っていたりもするが、それは母には内緒だ。  その代わりに高校の卒業資格は取りなさい、というのが母の条件だった。  だから通信制の高校に入り、ようやく3年分の単位を修得できそうだというのに、ここでまた扉が開く。  大学受験。  事故に遭う前は、それなりの進学校に通っていたので大学進学は考えていた。が、事故の後、高校を中退し、虚無に浸り、2年ほどを無駄に過ごした後では高卒資格だけが目標だった。  なのに、だ。  ジビエ料理店のお返しに、うまい蕎麦をごちそうしたいとか何とか言って、サトルが自分の恋人のヒマリと、その友人2人を店に連れてきた。たぶん、いつもの仲良し3人組なのだろう。時生が学食で会ったときと同じメンツの、青山倫子と保田七恵だった。  両親はサトルの来店に喜んでいた。毎日のように顔を見ていた小学生の頃と違い、サトルが店に来るのも久々だったからだ。  時生は渋々、4人に鴨つけそばを運び、サトルが一緒に食おうと言って、仕方なく同席した。  確かに、同世代とわいわい無駄話するのは久しぶりだったし、楽しかった。  座っている分には時生が違和感を感じることもなかったし、たぶん向こうだってそうだろう。多少、話題には配慮されている気がしたが、それでも昔のバカ話をサトルが尾ひれをつけて話して、女子がケラケラ笑い、時生も腹が痛くなるぐらい笑った。  最後にサトルが言った。 「で、おまえ、共通テストは受けるんだろ?」  母がそれを聞いて、歓喜したのは言うまでもない。
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