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このままでは、あとひとつ残るオプションが実行されてしまう。百本コースの傘で体を貫かれるオプションが――
せめてそれだけは回避したい。そして今世での余生を、できる限り傘に振り回されずに過ごしたい。借金もどうにかせねば――
そこで彼は考えた。
(そや。傘に代わる画期的な雨よけ道具を生み出すいうのはどやろか)
そう思い至り、知恵を振り絞った。
持てる限りの知識を集約し、考えに考えた末、たまたま上空を飛ぶドローンを見かけて彼は閃いた。
『携帯型屋根』
屋外を歩行中、人ひとり分サイズの屋根が頭上に浮かび、雨から守ってくれるというものだ。しかも人の動きをセンサーで感知して自走するように設計できれば、自動的に着いてくるので操縦の必要もない。
なんと神がかったアイデアか。是非にもこれを作ろう。
そう思い立ったが、いかんせん元手がない。無職な上、砂漠への渡航で借金がさらに膨れ上がっていた。
そこで晴反はついに盗みを働いた。
廃材置き場から使えそうなものを拝借し、発明に使えそうなものはそのまま使い、金になりそうなものは売り払って日銭を稼ぎ、元手を得た。
そうして苦心の末、彼はとうとう携帯型屋根の試作品を完成させた。
スマートフォンと連動させて、アプリを通して遠隔で呼び出すことができる機能も付けた。これならば常に持ち歩かなくとも、外出先からもすぐに自宅から呼び出すことができる。
(屋根であって傘ではないよって、これならおれの呪いも適用範囲外やろ。現実、こうやって開発もうまいこと行ったわけやし)
そう思ったとおり、この発明品によって災難に遭うということはなかった――かのように思われた。
この発明で特許を取り、商品化したいという企業が現れた。
企業の力で量産されて売り出したところ、携帯型屋根は爆発的なヒットを飛ばし、やがて傘に代わる雨具として一般市民に広く普及した。
今や、雨の日に飛び交う小さな屋根が都会の日常風景となった。
携帯型屋根の生みの親として「雨の日を変えた男」などとメディアでもてはやされ、巨額の富を手に入れた。借金も一気に返済し、晴反は一躍時の人となった。
だが、そこで面白くないのはかつて傘を生業にしていた人々だった。
「お察しの通り、私はこの奇抜な名前のせいでこれまでえろう苦労してまいりましてん。この地獄から逃れるために、この名前といっしょに傘を過去の遺物にしてしまいたかったいうんが開発の動機です。え、まだ傘なんぞ使っとる方おるんでっか? もしよければ、私の発明品なんぼでも寄付しまっせ。前世の業いいますか、人様のお役に立ちたい思いもありますしなあ」
富と名声を手にして気が大きくなり、インタビューで高飛車にそんな発言をした。それが廃業寸前に追いやられていた傘メーカー各位の虎の尾を踏むことになった。
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