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中村
中村という女は、先日夫を失った。子供はいない、夫の死因についてはよく分からない。職場で倒れたということと、対応が少し遅れたことから、心筋梗塞とかそういった類いのもので亡くなった。
そのまま葬式を終えて、中村の友人や家族は心配してくれた。だが、良心だとしても、おそらく一緒にいて幸せだった、少なくとも居心地が良かった夫を失った悲しみから、誰もが自分の不幸をぎょろっとした目で確かめに来ているように思えてしまう。
「幸せな人に会いたくないわ」
ひねくれている、だがこの世界に神様などいない。でも一人で抱えられる痛みでもない。
死なないための夕食を貪る。
自然解凍で食べられる冷凍冷やしパスタらしい。何も考えられずぼうっとしているだけで食べ時が来るのは便利だった。
「これからどうしよう」
不安ではない。
ただ道標を失って、何もない日々がどっしりとした重みで乗ってくる。
助けてといえば惨めになる。
幸せな人にはやはり会いたくない。
つぶやきアプリのつぶやきは中村が幸せに思えない人たちの掃き溜めだった。
そこに、高校のときに仲が良かったグループに所属していた男を見つける。
バツイチ、一人暮らし。
幸せには見えないが、充実した生活を送っていたのかもしれないと感じていた。
だが、愛車を手放さなければならないとつぶやいていて、その不幸さと懐かしい淡々としたつぶやきが、中村の終わってしまいそうな心を支えていた。
その手は勝手に動いた。
ダイレクトメールを送った。
『渡辺くん、私さ』
この先にどんな言葉を続けるべきか?
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