食料調達

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食料調達

「太ってなくて良かった」 「……。どういう意味かしら?」  改札口から出た中村を車に乗せる。  中村はそれなりに整えた格好だが、皺が残っていて、垂れた袖に脱力した手を通していた。 「重いと走る距離が短くなるからな」 「なにそれ、サイテー」 「でもむしろ痩せすぎている」 「かも」  一人ぼっちと一人ぼっちの車内。  中村は運転席の後ろに腰を下ろした。  スマホを取り出す。 「どこ行くつもり?」 「今日は相棒との最後のドライブだ。あまり渋滞しないところがいいだろう。本当は風を感じてみたいが」 「暑いから嫌よ?」 「分かっている」  地球温暖化の影響か、窓を開けての走行は地獄でしかない。  風を感じるのは諦め、まずはファーストフードで食料調達をする。 「フライドポテトと、テリヤキバーガー、アイスコーヒー。中村さんは?」 「高校の時から変わらないから。チーズバーガーとナゲット、セットポテトはもちろんサイズアップ。それと、コーラでよろしくお願いします」 「そんなに食べるっけ?」 「久しぶりの自棄食い。一生愛するってプロポーズされたんだけどな、そっちの一生かよって。私が満足するまで愛し続けないと」 「愛なんてそんな大そうじゃないだろ?」 「え、なに?」 「って痛いな! こいつ、つねった!」  二人は昔に戻ったようだった。  高校の時の渡辺と中村の絡みは多くはなかったが、渡辺はこういう失礼なやつだったし、中村はこういう怒りっぽいやつだった。 「フライドポテトの塩、代替塩か本物か選べるって。私たち、即答したわね」 「高血圧気にして代替塩選ぶやつなんてとんだ臆病者だろ。俺なんて医者に怒られっぱなし。でも元々血圧高めなんだよって」 「株式会社アジメイの代替塩、塩味はあるけど身体は吸収できないから害はなくて、でも少しお腹が緩くなるみたいだけど」 「気にせず塩取るだろ。ミネラル足りないって分かってから塩分取っても遅いっての」  車に乗る。  ドリンクホルダーにコーヒーを設置して。 「あ、鳴るかも」 「何がよ?」  中村のスマホ画面が光って、ピーピーと不快な音がする。 「なにそれ?」 「健康管理アプリ。匂いを感知して全方向探知機能が動いて、油の塊がばれた。許容量を超えていますって」 「で、どうするんだよ?」 「保険証にデータ送られる前にね、人工知能に任せるの」 「つまり?」 「アーちゃん、今から食べるもの内緒にしたいから。ナゲットもポテトも食べるって履歴消しといてね!」  中村がスマホに語りかけると、アニメイラスト風の青髪少女が映る。  汗をかいていた。 『健康、どうなっても知りませんよお』  その青髪少女は頬を膨らませる。 「今日は私らしくいようって思ってるから。健康管理機能とかいろいろキャンセルしよう! 渡辺君は?」 「元々使ってないな。元妻には一回勧められたけど」 「断ったわけだ。流石、期待のバチイチ」 「なんだよ、それ」
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