あと一回、取り残されてみませんか?

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あと一回、取り残されてみませんか?

 中村を駅で下ろそうとしたが、あまりにふらつくものだから諦めた。  ガソリンの残量的にもう一回駅まで送るのは危険だ。  明日歩いて駅まで行ってもらうしかない。  家に入る。  渡辺はシャワーを浴びて、寝る支度を進めた。  そして、中村を捨てられなかった元妻の布団に寝かせた。  翌日。 「渡辺君、昨日はお疲れ様。介抱させたね」 「さっさと布団に置いて寝たが?」 「流石バツイチ」  中村は昨日よりも元気そうに見える。  表情がころころ変わっている。 それが本来の姿なのだろう。 「あと一回は遊びに行く」 「勝手にしろ、仕事さえ休みだったらどうせ家にいる。暇だ」 「悲しくないの?」 「慣れている」 「そっか。幸が薄いやつ」 「それでダイレクトメッセージ送ったわけだろ?」 「もちろん」 「もちろんはひどくないか? いいけどさ」 「ありがとね」 「こちらこそ」  中村は引きつった表情で怯えるように後退る。  大事そうに自身の身体をぎゅっとして。 「な、何をしたの? 頂かれたってこと? 私にお酒飲ませて」 「勝手に飲んだだけじゃねえか。そして頂いてない、そういうことじゃない」 「じゃあどういうこと?」 「一緒に相棒に乗ってくれたこと。もう動かせないから、一人じゃなくて二人で乗った方が相棒の広々空間が役立つ。車冥利に尽きただろうって」 「びっくりした。感謝されてやるわ。不幸同士頑張りましょう」 「ああ」  こうして、奇妙な関係性の二人のドライブが終わった。  技術にも周りの人にも取り残された二人、それはなかなか不幸だろうが。  きっと大不幸ではないのは、一人ぼっちではないからだ。
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