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「はい。旧小玉村の史料については図書館で調べました。あの史料をまとめたのは土方家の方ですね」 「まあ、あれをお読みになったの。難しい本だったでしょう。あれを編集なさったのは、村の大百姓だった土方の分家の御子息ですのよ。民俗学の偉い先生でしてね、村の歴史について調べてらしたわ。後に並川の町長も務められたんですよ」 「ですが河童塚のことについては触れていませんでした」  多嶋の言葉に、正子の表情が曇る。 「残すべきではないと判断したからでしょう。穢れの言い伝えは自分たちの代で封印すべきだと仰っていましたから。ですから、うちにある古い書き物なども、先生に全部委ねましたのよ」 「そうでしたか……」 「この村は高度成長期まで、ほとんど閉ざされた状態で、私たちは村の中の小学校に通っていました。原田にある中学校に通うようになって、初めて村の外に出たって子がほとんどでした」  ということは、『穢れ』は全て村の中で完結していたということだ。 「ですが、そう、戦中に……」  正子が突然、口を閉ざした。そこで多嶋は質問をした理由を話した。 「実は、事故に遭った児童ですが、『殺される』と今も怯えています。事故の時に、子供の幽霊を見たようです。それが病院にも現れると信じて怖がっているのです」 「まあ……」  口元を押さえ、恐怖した正子をなだめるように、多嶋は遠回しな言葉を選びながら説明する。 「彼は市民病院に入院しています。ここなら安全だと、言ってあげたいのです」  多嶋の話を聞くと、色を失った唇を動かし、正子がさっきの続きを語りだした。 「穢れについては、詳しくは話せないのです。それに関わってしまうと、こちらにも穢れが憑いてしまうと信じられていますから」  そう前置きして続ける。 「戦中にあった話では、その家の出兵していた息子さんだけは、難を逃れたと聞いたことがあります」
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