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 結局、佳奈は今も常習的に夜の街を徘徊している。  児童相談所にも相談したが、この母娘以上に深刻な虐待や生活苦、子どもの非行に悩む家庭は少なくないのが現状で、三波家の場合、あくまでも佳奈の反抗期だと周りは捕えている。  だが、多嶋は佳奈の現状を見過ごすことができなかった。過去にも同じような経験があったからだ。  非行に走ろうとする少年少女――彼らを補導した時、その背景にある家庭の問題が見えているのにもかかわらず、介入することもそこから救い出すことも難しいという現実には、幾度となくぶち当たってきた。仕方がないとあきらめた途端、子どもたちは坂道を転がるように非行や犯罪の道へ堕ちて行く。中には事件に巻き込まれて死んだ子どももいた。そういう挫折感を何度も味わい、常に歯がゆい思いで己の仕事と向き合ってきた。  今、目の前にいる三波佳奈もそうだ。明らかに誰かが手を差し出してやらねば、簡単に転がり落ちていく坂の途中にいる。  だからと言って、一警察官が特定の家庭に肩入れすることにも限度がある。それも十分わかってはいるが、いつの間にか懐いてくれるようになった佳奈のことを放っておけなくなっていたのも、まぎれもない事実だった。  この日、送り届けた三波家の部屋に、珍しく灯りがついていた。それなのに佳奈はポストの裏に貼り付けてあった家の鍵を取り出すと、慣れた様子で鍵を回しドアを開けた。灯りはついていたが、母親はいない。無言で部屋に入ると、佳奈は足元に転がっていた空のペットボトルをぐしゃりと踏み潰した。 「一度帰ってから出て行ったんだ」  部屋の中は相変わらず散らかって、ゴミ部屋寸前という状態だ。多嶋は勝手の知った台所に立った。  散らかった部屋の中、なぜかキッチンだけは片付いていて、佳奈の夕飯のおかずが用意されていた。  今夜はジャガイモがメインの煮物、キャベツのサラダ、卵焼き。だが…… (米が無いのか……)  炊飯器は洗ったままだ。  こんなこともあろうかと、スーパーに寄った時、余分におにぎりを買っておいた。  煮物に火を入れている間に、卵焼きを電子レンジに入れる。
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