終章 「再会」

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「帰るぞ」 「え、ああ、はい」  間抜けな顔をした篠原を置いて行く勢いで車に戻ると、さっさとエンジンをかける。  土方は何と言っていた?  優香は何と証言した?  あの現場に現れた佳奈の亡霊は何を言った? 「あのう、あの紙は……」  上司に運転をさせる気まずさもあってか、おずおずと篠原が尋ねて来る。 「あれは十二年前の事件のものだ」 「十二年前……。もしや、胎児を抱いた少女が池に浮かんだって事件ですかね。確か、その少女のお母さんを親友の女の子が殺したという」  その奇怪さと残忍さから、事件はすぐにニュースだけでなく週刊誌でも取り上げられ、話題となった。だからこの池や団地も心霊スポットとして有名になったのだが、いずれもっと猟奇的な殺人事件や悲惨な事故の報道に紛れて、いつしか忘れ去られていった。 「あれはその池に浮かんでいた少女――佳奈が書いた『願い事』だ」  ――「たじまさんといっしょにくらせますように」  その願い事を見つけた優香は、願い事の書いた紙を丸めて草むらに捨てたと言っていた。あの後、何度もここに足を運んで探したが、どうしても見つけられなかったのだ。  多嶋は恐ろしさに奥歯を噛みしめた。  十二年も前に棄てられた紙が現存する。そんなことはあり得ないことだった。  ――佳奈の呪いはまだ終わっていない。 (いや……)そんなはずはない。十二年前に土方が言っていたではないか。佳奈の最初の願い事は、そもそも悪しき願い事ではないと。それなのに、佳奈の名前の入った、恨み言を連ねた作文を置いてしまったことで、呪いが発動されたのだ。  では、あの紙に書かれた願い事はただの願い事なのか? それともすでに穢れを呼んでしまったのか…… 「死人が出た段階で、すでに穢れは広がっちまったということだ」 「え? どういう意味ですか」  つい漏らしてしまった独り言に篠原が問い返したが、答えられるはずもない。  ――「呪ったもん勝ちなんだよ」  佳奈の願いを叶えるためには……あの時、優香は何と言っていた。  遥か十二年も前のことだ。どうしても思い出せなかった。
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