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多嶋は先ず、署からほど近い駅前のローカルスーパーで自身の買い物を済ませた。それからさらに車を走らせ、隣駅の住宅地の中にあるスーパーの駐車場に車を停めた。
車を下り、しばらく辺りをうかがっていたが、そのまま敷地内にあるゲームセンターの方へと歩き出した。
「見つけたぞ」
多嶋は目的の彼女を見つけるや、正面に回って仁王立ちになり進路を塞いだ。
ここはこの近辺にあるスーパーの中でも一番大きい商業施設だ。敷地内にはホームセンターやドラッグストア。百円ショップや全国チェーンのハンバーガーショップ、ゲームセンターもある。ただ、都会のそれと違うのは、だいたいの店が九時、遅くとも十時で閉店してしまうことだ。
どう見ても小学生にしか見えない少女は、多嶋と目が合うと、しまった――と言うような表情をした。
艶やかな真っすぐの髪、すらりとした手足に人形のような小さい顔。大人びた表情の彼女は、大勢の中にいても目を惹く。
「もう少し遊びたかったのになぁ」
遊んでいるというよりも、灯りの点いている明るい場所で時間を潰しているだけと言った方が正しい。
「無理だ。もう九時を過ぎただろ。もうすぐゲームセンターも閉まるぞ」
多嶋が腕時計を示す。
「知ってる。でもあの人はまだ帰っていないよ」
「わかっている。だから俺と一緒に帰るんだ」
初めの頃は、こうやって見つけると逃げ出していた。
「あの人が帰って来るまで、多嶋さんがいてくれるんだったら、帰ってもいい」
だが今では、すっかり懐いて、まるで多嶋に見つけられることを待っているかのようにも思えるのだ。
「それは無理だ。あと、あの人とか呼ぶな。『ママ』だろ」
「ママの資格なくない?」
尻上がりの言葉尻に、多嶋は何も答えない。
「だいたい、仕事が終わってる時間なのにさ、全然帰って来ないの。そろそろ施設に入れられてもいい案件だと思うんだけど。ネグレクトってヤツでさ」
背中まで伸ばし放題の髪を、まるで大人のような仕草でかき上げる。
「それでもママはちゃんと毎日帰って来るだろう」
「最近はそうでもない」
愛らしい唇を突き出す。
ネグレクト――と彼女が言うほど、彼女の母親は娘を放置していない。彼女の身なりは少々ちぐはぐなものの洗濯されている。髪は伸びきってはいるがシャンプーの匂いがするし、痩せているが栄養失調ではない。
だが、母親の愛情を感じるには至らない程度に、娘は母親に無視されていた。
「とりあえず帰ろう、佳奈」
多嶋が手を差し出す前に、佳奈が多嶋の手を握った。
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