1 おはよう

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1 おはよう

「ほらー、はる君、おーきーなーさあああいっ」 「ん…あと5分…」 「だーめ!もう遅刻するよ」 もう少し寝ていたかったのに、無理やり布団をはがされた。 「おはよう母さん」 「おはやくないわよっ。ほら、さっさと行く!」 「へーい」 今日も今日とていつも通りの日常が始まる。朝寝坊して遅刻ギリギリで教室に滑り込む。 「はよ」 「おー、平世!おはよー。ちょーねみい」 「俺も」 こんなありきたりな会話をしながら席に着く。 え?俺は誰かって? 俺の名前は平世 晴(ひらせ はる)。どこにでもいる高校1年生だ。ま、いわゆるモブってやつだ。たぶん、アニメか漫画だったら、画面の右端らへんに半分見切れながら表情もなく存在しているタイプだ。 「なな、ニュース見た?」 こうやって話しかけてくるのは友人の鈴木。モブの友人はやはりモブである。 「ん?なんのことだ?昨日はずっと寝ててさ」 「なんだよ、知らないのか?昨日さ、また殺人事件が発生したんだってさ」 「へー」 「そんな興味なさげにすんなよ」 「興味ねえもん」 「まあまあ、そういうなって。なんでも、その殺人事件、まだ犯人が捕まってないんだってさ」 「はやく捕まるといいな」 「いやー、俺は捕まらないでほしいな」 「なんで」 「だってさ、そいつが殺したのって国際的な犯罪集団だったらしい。組織の約半分が殺されてたって話だぜ」 「ふーん」 「ってことはさぁ、そいつら殺した奴っていい奴じゃね?」 「そうか?でも人殺しだろ」 「でもかっこいいよなぁ、世界を魔の手から救う暗殺者!まるでヒーロー!しびれるぅー」 「…そうか」 「お前な、」 ここでタイムアップ。担任の登場だ。ま、今の話なんて昼には忘れているだろうし。朝から仕事の話を聞くことになるとは思わなかった。犯罪集団を懲らしめたら正義のヒーロー?そんなわけないだろ。ただの暗殺者だ。 一度足を踏み入れたら抜け出せない、底なし沼だ。 「次、平世晴」 「はーい」 ま、とりあえず今は忘れよう。今日は日直だ。
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