第十九話

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第十九話

 「おいで」  ベッドに腰かけた八木の上に跨るように座る。  目を細めて笑う八木の目元はまだ濡れていて、 長い睫毛一本ずつに宝石みたいな水滴がつい ている。好きの形。ここにあったんだと唇を寄せ て吸うと甘酸っぱい味がする。  慎重な手つきでベッドに寝かせられ、キスをし ながら八木の手に臍をくるりと撫でられるとぞわりとした感覚があった。  下着ごとズボンを脱がされ、兆した屹立をやん わりと包まれる。ごつごつした大きな手に甘い 声が漏れた。  「結構立派なもの持ってんだな」  「んんっ……なに、莫迦なこと言ってんの。萎え させる気?」  「ただの照れ隠しだよ」  そう笑ってキスをした。これで三回目だと余 韻に浸る暇もなく、四回、五回と続きもう数 えるのが億劫になってきてやめた。  性器を握る八木の手は的確に弱い部 分を擦りあげてくる。カリの裏側の窪みに八木の 指がぴたりとはまり、追い詰められる。  「あっ、あっ……んぅ」  「可愛い声。もっと聞かせろ」  ずるずると下がっていく八木をぼんやり眺めて いると性器をぱくりと口に含まれた。  「あっ、いきなり……だめ、あぁっ!」  屹立を強く吸われ、自慰とは違う刺激の強 さにクラクラした。荒っぽいのにその雑さが八木 らしい。  階段を一気に駆け上ったように限界がきて、 八木の咥内に射精してしまった。一滴残らず 吸われ、足の付け根が痙攣している。  八木は口に含んだ精液を手のひらに出して、 まじまじと見つめた。  「やっぱ若ぇな」  「莫迦……一回口ゆすいできなよ」  「まだこっからだろ」  「えっ、なに」  八木は精液の滑りを確認し、蕾に塗 りつけられた。傷つけないように丁寧に濡らし、ゆっ くりと指が入ってくる。  「はぁっ、ぅん……」  「痛いか?」  「へーき」  八木の指が奥へと挿入ってくる。圧迫感はあ るけど痛みはない。  排泄する器官だったはずなのに八木を受け 入れたいと身体が変わってしまったみたいだ。  時間をかけて指が二本、三本と増やされた。  肉壁を探るように指を抜き差しされ、ある一 点を掠めたとき背中が弓なりにしなる。  「ここ?」  「わかんなっ」  なおもしつこくそこを押されると萎えていた性 器がぐんと天を仰ぐ。身体は気持ちいけど心が 寂しい。  「ねぇ……もう挿れて」  八木の肩に掴まって情けなく泣いた。  与えられるばかりは嫌だ。八木のことも気持ち よくしたい。  そう懇願すると八木は無言でシャツを乱暴に 脱ぎ捨て、ズボンの前を寛げて自分の性器を 取り出した。  真夏のよりも大きい性器は固く張り詰め、 我慢してくれていたのか先走りでぐっしょりと濡 れている。  あまりの生々しさにひっと息を飲んだ。  「や、八木」  「なに? 待てはなしだぞ」  「ごめ、待って」  「なしだって言ってんだろ」  両足を広げられ、八木の性器が中に挿入 ってきた。指とは比べものにならない質量に息を 飲む。  八木は怒ったような顔をしながら無遠慮に 腰を穿つ。さっきまでのやさしい愛撫はどこかへ消え、獣のような本能でただ真夏を欲している。  長い前髪から覗く細い目が鋭く光り、見下ろ されているだけでお腹がぐっと重くなった。  「ンあ、あぁ……待っ、んん」  「止めらんねぇ」  八木に腰を掴まれ、さらに追い打ちをか けてきた。弱い箇所を正確に突かれるたびに涙が溢れてくる。  快楽に耐えているのか八木の眉間に皺が寄り、 その苦しそうにも見える表情に色気を感じた。 そんなに気持ちいい?と訊いてみたいのに嬌声 しかあげられない。  「ちょっとこっち来い」  「えっ、なに……あぁ!」  腕を引っ張られ八木の上を跨る体勢にされ、 不安定な体勢で倒れないよう背中に腕 を回した。膝立ちをした足に力が入らない。で も少しでも支えている力を抜くと屹立がさらに 奥へ挿入ってしまう。  「自分で動け」  「だめ、できなっ……怖いっ」  「ゆっくり膝を落として」  甘い吐息が耳殻に触れてくすぐったい。身を 捩ると八木の手に背骨を辿られ、ぼこぼ ことしたおうとつを撫られる。  かさついた八木の手が汗で湿った真夏の背 中の水分を含んで滑りがよくなり、その手に尻 を掴まれた。  ぎゅっと腕の力を籠めると頬にキスをされた。  「かわいい。意地悪し過ぎな」  目元の涙を指で拭われ、今度は唇にキスをし てくれる。舌を絡ませる濃厚なキスは八 木との境界線を曖昧にした。  やっと自分の身体の所在がわかった気がする。  有希が死んでから一人でも頑張らなくちゃと 気を張り続け、心がいつも先を走っていた。  でも八木と一つになったいま、触れられる肌や 溶け合う汗が真夏という人間の形を教えてく れる。  腹に挿入っている性器の上を撫でた。  両親から見放されて、唯一の家族の有希が死んだとき世界中で一人ぼっちだと思った。  誰にも必要とされない自分が誰かに必要と される未来なんて想像できるはずもなく、ただ 有希が望むままに生きていた。  でもいまは八木がいる。好きだと 言ってくれた男の身体の一部が自分の中にあ ると孤独感で喘いでいた心が満たされていく。  「いまここに八木がいる? 僕はもう一人にな らない?」  「……ずっと一緒だ」  「本当? 僕のこといらないって言わない?」  「言わない。愛してるよ」  八木は腰を跳ねさせ最奥を突かれた。頭が 真っ白になる感覚に一瞬意識が飛ぶ。  「あっ、なに……やぁっ、あぁ」  「あとでいくらでも言ってやる。もう限界」  繰り返し奥を暴かれ、振り落とされ ないように背中に腕を回して何度も喘いだ。  八木の動きが荒々しくなり、あっという間に 二度目の絶頂を迎えた。追いかけるように中に 熱いものが注がれ、肩に頭を置かれた八 木はフーフーと呼吸を整えている。  「大丈夫か?」  「……だめかも」  「若いんだからこれくらいでヘバるな」  二度も射精したから酷く疲れているのに汗ば んだ八木の首筋からはむわりと雄の匂いがして 気持ちが高ぶり始める。  「八木」  キスをねだると八木は顔を寄せてくれた。触 れて、離れて、また触れて。  それを何度も繰り返していると中に挿入った ままの性器が固くなっていく。  八木は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。  「悪い」  「八木も若いね」  そう揶揄うと八木はやさしい笑顔を向けてく れた。  「真夏が可愛すぎるのが悪い」  「なにそれ……んあっ、あっ!」  八木に押し倒され、律動が始まった。与えら れる刺激に空が明るくなるまで溺れ続けた。
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